レティシア書房店長日誌
森見登美彦「シャロック・ホームズの凱旋」
「十月下旬、爽やかな夕暮れのことである。下鴨本通りにある自宅兼診療所で妻のメアリと紅茶を飲んでいると、メイドが郵便物を持ってきた。請求書やら医師会の開放にまじって、一通の可愛らしい封書が目についた。
それはホームズ譚の愛読者からの手紙であった。」
この「下鴨」の自宅兼診療所で医者として働いているのが、あのワトソン博士です。そして、なんとホームズの事務所は京都市の真ん中、寺町御池にあるというのです。(パン屋さんの近くかなー、とか近所なんでつい思ってしまう)
そう、森見登美彦の長編小説「シャロック・ホームズの凱旋」(古書1400円)は、京都の市中で展開します。日本人作家が書いたホームズ・パロディ小説の最高傑作と思わず言い切ってしまうほどの出来具合! 森見といえば、特に初期作品は京都が舞台のいい青春小説が沢山ありました。誰もが知っている京都の街を巧みな技法と幻想味溢れる空間に変えて、私たちに新しい魅力を伝えてきました。
コナン・ドイルが19世紀末に発表したシャーロック・ホームズの物語は、もちろんヴィクトリア朝ロンドンが舞台です。登場人物はオリジナル通りイギリス人ですが、地名のみが京都に置き換えられているのです(辻馬車で京都市内を行き来します)。ホームズの住所もベーカー街221Bではなく寺町通221B(?!)です。ここではホームズが探偵として極端なスランプに陥り、探偵業は開店休業の状態になっているところから始まります。颯爽と犯人を追い詰めてゆくというホームズはここには登場しません。もう惨めなホームズが、ボソボソと歩き回っています。
原作のホームズ物語のエッセンスを抜き出して京都の都市空間に置き換えてゆく手法が、とても上手い。森見の文体で書かれているのに、ホームズ物語との間に違和感がなく読めてしまうのが驚きです。そして、主役はホームズではなく、ワトソンです。名探偵シャーロック・ホームズの伝記を書き続けたことにで、探偵小説作家として世に認められたワトソンが、自分が探偵小説を書く意味を探り出すプロセスを読むことになるのです。
「これからも名探偵シャーロック・ホームズは多くの事件を解決していくだろう。そして、その冒険を記録するものはジョン・H・ワトソンにおいて他にない。シャーロック・ホームズの凱旋はジョン・H・ワトソンの凱旋でもある。」この京都とロンドンを股にかけた、不思議な夢のような冒険譚のこの最後の文章には、著者のホームズ&ワトソンへの大きなオマージュがあふれています。
レティシア書房ギャラリー案内
2025年 1/8(水)〜1/19(日)古本市
1/22(水)〜2/2(日)「口を埋める」豊泉朝子展
⭐️入荷ご案内
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)
秦直也「いっぽうそのころ」(1870円)
折小野和弘「十七回目の世界」(1870円)
藤原辰史&後藤正文「青い星、此処で僕らは何をしようか」
(サイン入り1980円)
YUMA MUKUMOTO「26歳計画」(再々入荷2200円)
モノホーミー「自習ノート」(1000円)
コンピレーション「こじらせ男子とお茶をする」(2200円)
牧野千穂「some and every」(2500円)
マンスーン「無職、川、ブックオフ」(1870円)
笠井瑠美子「製本と編集者」(1320円)
奈須浩平「BEIN' GREEN Vol.1"TOURISM"」(1300円)
小野寺伝助「クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書」(825円)
小野寺伝助「クソみたいな世界で抗うためのパンク的読書」(935円)
佐々木みつこ「戦前生まれの旅する速記者」(1980円)
山口史男「植物群のデザイン」(1650円)