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レティシア書房店長日誌

村井理子「家族」
 
 琵琶湖畔に住む、翻訳家でエッセイストの村井理子は、愛犬家でもあり、「ハリー大きな幸せ」、「犬ニモマケズ」、「犬がいるから」などの素敵なエッセイを書いています。しかし、自分の家族を振り返った「家族」(古書1300円)は、壮絶という言葉しか出てこない本でした。


 父を、母を亡くし、さらに兄を失い、一人になった著者はこんな風に振り返ります。
 「時代が良ければ、場所が良ければ、もしかしたら今も三人は生きていて、年に一度ぐらいは四人で集まって、笑い合いながら近況報告ができていたのかもしれない。一度でいいから、そんな時間を過ごしてみたかった。父と兄が怒鳴り合わない時間を、母が心から笑う時間を、兄が他者との心の繋がりを感じられる時間を。」
 著者は「手術が必要なほどの心疾患を抱えて生まれてきた。生まれてすぐに、ゆくゆくは手術が必要になる、そうしないと長く生きられないと医師から伝えられたそうだ。」という状態でした。小さい時から手に余るほどのやんちゃな息子と、心臓病の娘を抱えた30代前半の若夫婦という家族。
 父親は、兄と母には手厳しく接してきましたが著者を溺愛していましたし、暴力的で粗野な兄は、家族にとって厄介な存在だったのですが、著者だけは可愛がってくれていました。その一方、母親は全く何を考えているかわからない人であり、何度も衝突した人でした。父、母、兄は、決して幸せな最期を送ることはありませんでした。
 壊れてしまった家族は、「家族」なのか、そうでないのか。「家族」という言葉の意味を何度も考えさせられます。なんとかギリギリのところで保っていたものが、父がいなくなって家族が消えていく様子を、よくもここまで書いたものだと思います。
 もう母の最期というとき、お別れに来た兄に向かって母は、「顔を歪め、恐怖に満ちた口調で、しぼり出すように、『来ないで、怖い!怖い!』と言った。見開いた両目に涙を溜めながら、『出て行って!もう来ないで!』」と叫びます。
 「母は死の直前になって、兄を完全に拒絶した。徹底的に遠ざけた。兄は雷に打たれたように体を硬直させ、そして身を翻して病室から出て行った。そしてそのまま戻らなかった。兄がどこへ行ったのかはわからない。」
 崩壊してゆく家族の歴史を描いているのですが、それでも読後感が暗くならなかったのは、最後まで家族を嫌いにならずにいた著者の心の有り様でした。それは、著者が母になったから生まれた気持ちの変化なのだろうか。あるいは、著者が今、平穏な家庭が持てたことなのか、それとも彼女に寄り添ってきた愛犬のおかげなのかわかりませんが、読んで本当によかったという気持ちになりました。

●レティシア書房ギャラリー案内
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
12/11(水)〜12/22(日)「草木の色と水の彩」作品展

⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)

モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)

黒野大基「E is for Elephant」


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