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レティシア書房店長日誌

国立民族学博物館監修「吟遊詩人の世界」
 
 大阪千里万博公園内、国立民族博物館は1974年に創設され本年で50周年を迎えました。それを記念して、世界各地で現在も人々の暮らす家から家へ、あるいは村から村へと巡りあるき、歌い語る「吟遊詩人の世界」展(12月10日まで)が開催されています。
 

 本書はこの展覧会の解説書です。(新刊2970円)写真がふんだんに使われ、眺めているだけでも楽しくなってきます。エチオピア高原の、インド北西部に広がるタール砂漠の、ベンガルの、ネパールの、それぞれの個性を持った詩人たちの姿、その衣装、そして楽器が、詳細に書かれています。
 日本からは瞽女が紹介されています。盲目の旅芸人瞽女は、室町時代から存在していたらしく、江戸時代には瞽女の集団が全国に分布していました。当時娯楽の少なかった農村に多様な唄を届けるエンタテイナーであり、カウンセラーとしても活躍していました。が、日本の近代化に伴い、数が減少し、2005年に最後の瞽女と言われる小林ハルが亡くなり、ほぼ消滅したとされています。本書では貴重な写真を用いて、彼女たちの文化的役割を論じていきます。
 そして後半では、かつての吟遊詩人たちの音楽が、現代のヒップホップミュージックに流れ込んでいるという論考です。モンゴル高原の遊牧民たちの間では、楽器を演奏しながら物語を歌い語る口承文芸が発達しました。美しくリズミカルな音を作り出すための韻を踏む技術を駆使して、時には数時間も歌い語り続けたのです。その伝統が、現代モンゴルのラッパーたちへ継承されているのです。
 

韻踏み文化を継承するモンゴルの詩人

「モンゴルのラッパーたちは、伝統的な韻踏み文化を現代のヒップホップ文化と融合させることで新しい文化を生み出している。」そして、ラッパーたちは強烈な社会批判を盛り込んだ曲を発表しているのです。例えば、モンゴル・ヒップホップの代表的なグループICE TOPは「76」という曲(2002年)で、汚職議員に向かってこんな言葉を投げつけます。
 「柔らかい椅子からケツをあげることなく、毎日話し合い、正しいか、まちがっているか、たーくさんの法律を決めて、ほんのちょっとだけ、国民の前にテレビで姿を見せて、実行はしないくせに、口約束ばかりの76人にこの歌を捧げる、飲んで食って、腹一杯になって、喉につかえているじゃないか?国をゴミにするためにおまえたちは、今、しなくちゃいけないことをやめたんじゃないのか?人のためにこの社会の汚染を滅ぼそうぜ。国の繁栄のために貢献することを決意しろ!決意しろ!決意しろ!」
 そのまま、日本の裏金議員に投げつられそうです。原始的な芸能が、最先端の音楽に受け継がれているなんて面白いですね。

●レティシア書房ギャラリー案内
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ

⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)

SFアンソロジー第4弾


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