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レティシア書房店長日誌

養老孟司&宮崎駿「虫眼とアニ眼」
 
 虫好き解剖学者と映画監督の対談。面白くないわけがない!一冊です。お互いに本音で、言いたいことをドンドン発言しています。(古書1050円)
1997年、98年、2001年の3回の対談に加えて、宮崎監督の養老先生の印象を描いた漫画「養老さんと話して、ぼくが思ったこと。」と、養老先生の宮崎アニメ論が、巻頭と巻末に収録されています。
 「『となりのトトロ』で、妹がトトロを発見してジーッと見つめているシーンがありましたでしょう。ぼくは、あの女の子の正面の絵を徳間書店の方に大きく引き伸ばしてもらって、東大の教授室の壁に貼っていたんですよ。ちっちゃい女の子が座ってジーっと見つめている、あの目つきが実によくて、解剖をやる人は、こういう目つきでなきゃダメなんだよって意味で。だいたいああいう目をした学生がいなくなっちゃたんです。」(養老)
 一方、文部省のゆとり教育やら、個性尊重の機運に対して宮崎は鋭い指摘をしています。
「個性を作れるようなゆとりをよこせと言うほうが、正しいんじゃないかとぼくは思うんです。突然いま、個性を発揮しろなんて言われたって、個性ないですよ。いままで自由のない社会で暮らしてきたのに、『さあ、自由なところへ行け!』って、砂漠の真ん中に放り出されたようなものでしょう。」
 さらに、「垂直線と水平線だけで作った街を全部やめて、地面と人間が渾然一体となったわけのわからない街を作って、さあ、そこからなにが始まるのかということを発信したほうがいいんじゃないか。」と宮崎の発言は続いていきます。
 もちろん、読者が知りたい宮崎アニメのことについても語っています。「走る少年を描く時にですね、足の裏にくいこむ石の痛さとか、まとわりつく服の裾とか、そういうものを感じながら、走るっていうことを何とか表現したいって机にかじりつくのが、僕らにとっての官能性です。」と、自分の作品における官能性について語っているのですが、そんな現場を宮崎のドキュメンタリー番組で見た記憶があります。二人の発言は、時に過激、時にシリアスで、その雰囲気が変化してゆくところも面白いところです。
 最後に養老孟司の至極まっとうな意見を。
「文部省は生きる力を与える教育といったが、生きる力がない生きものなんて、そもそも生きものじゃない。そんな変な存在がいまの子どもだと、本気で思っているのだろうか。現代は先が見えない時代だという。先が見える時代がそれならあったのか。そういう人には、私は『あなたの告別式は何年何月何日ですか』と訊くことにしている。人生でもっとも重要な日の日付を知らない人間が、いつから『先が読める』と信じるようになったのか。 子どもが子どもでいられない。そんな変な時代は、そろそろやめにすべきであろう。虫採って、アニメ見て、将来の夢を見ていれば、それでいいのである。生きる力なんて、子どもははじめから持っている。それをわざわざ、ああでもない、こうでもないと、ていねいに殺しているのが、大人なのである。」
 知的スリルに満ちた対談ですよ!

●レティシア書房ギャラリー案内
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
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町田康「くるぶし」(2860円円)
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「うみかじ7号」(フリーマガジン)
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島田潤一郎「長い読書」(2530円
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
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たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)

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