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レティシア書房店長日誌

ジョナサン・グレイザー監督「関心領域」
 
  オカルト映画より怖いと言われている本作。見終わった時心の底からゾッとします。
 描かれるのは、アウシュビッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘスの一家の日々の暮らしです。毎日おびただしい数のユダヤ人が虐殺される地獄と壁一枚隔てたヘスの住宅は、大きな庭と、シックな調度品が随所に設置された清潔感のある屋敷で、夫と妻と子供達は毎日美食を堪能しています。まさに天国と地獄なのです。

 映画は、収容所で日夜行われている虐殺のシーンは一切見せません。遠くで悲鳴が聞こえたり、銃声が響いたり、収容所の煙突から煙が上がっているのが壁越しに見えるだけ。まるで、収容所自体が、収容されている人たちを食いつぶしているような不気味な音を出しているように、聞こえてくるのです。しかしヘスの家族は、そこで何が行われていることは薄々知っていながら、何事もないように平和に暮らしています。そんなことがあり得るのかと思いますが、映画では、ここに訪ねてきた妻の母親が、耳に入ってくる異常な音や周りの空気に耐えきれずに、突然立ち去るエピソードが描かれます。
 さらに、ヘスの転勤が決まった時、妻は、ここはわたしの楽園だ、他には行かない!と激昂し、自ら「アウシュビッツの女王」とまで言い切ります。アウシュビッツや、ナチの非道さを描いた作品は数多くありましたが、主人公が誇らしげにアウシュビッツの女王というのを初めて見ました。
 ほぼ全編、各所に設置した固定カメラで撮影された映像は、とても美しく、家族の暮らしはほほえましく映ります。もしこの時代、こちら側にいたら、こんな生活を享受していたのかもしれないと思うとゾーッとします。
 自分の周囲の世界以外には目をつぶって、”見ざる、聞かざる、知らざる”状態に身を置いてしまうと、ヘス一家と同じようになるという事実に気づきます。世界の各地でジェノサイドが起こっていることを知っているということは、ヘスの家族は特殊な時代の異常な存在ではないと、その恐怖が背中に張り付いた映画でした。ぜひ、劇場でご覧ください。

●レティシア書房ギャラリー案内
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」I push and go
よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
「たやさないvol.4」(1100円)
「26歳計画」(再入荷2200円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)

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