レティシア書房店長日誌
クオ・チァンシェン「ピアノを尋ねて」
著者は1964年台湾生まれの作家。2012年初の長編小説を発表し、2020年発表の本書は、その年の台湾文学賞を総なめにしました。
ピアニストの夢破れた調律師の「わたし」と、ピアニストだった若い妻を亡くした老実業家の二人が主役です。グレン・グールド、リヒテル、ラマニノフ、シューベルト等のクラシックの音楽家が登場し、彼らの人生の悲愁が、物語のテーマでもある老いや孤独と同時に語られていきます。台湾では「聴覚小説」とも言われていますが、確かに文章のそこかしこからピアノの音が聴こえてきそうな小説です。(古書1400円)
「わたし」は幼いころ天才音楽家と呼ばれていましたが、親の音楽への無理解からピアニストへの夢は破れ、いまは調律師をしています。一方、「林(リン)サン」と日本語で呼ばれる実業家は、3カ月前に若い妻のエミリーを癌(がん)で亡くしたばかりでした。エミリーが経営する音楽教室のピアノを調律していたのが、「わたし」でした。未来への夢が破れた中年男と、老実業家の交遊が始まり、やがて共同でビジネスを立ち上げてゆきます。
抽象的な表現が入り込んで、意味が理解できない、もう一度読み直さねばならないところもあるのだけれど、登場するスタンウェイのピアノがどんどん擬人化されてきて、第三の主人公になってくる後半から、物語がとても深くなってきます。 読みながら何度か思ったのは、これは映画化されるだろうな〜ということです。文章が視覚的であること、登場人物たちがあまり心の中を見せないので映像で心の中を描写しやすいこと、そしてピアノの佇まいが見事に描かれているということから、映画で見てみたいと思いました。
後半で、この二人がニューヨークの中古ピアノの集まる倉庫へ向かうシーン、解体されてゆくピアノを見た「わたし」の衝撃がこう描かれます。
「この巨大なピアノの墓場を前にしてわたしが感じていたのは、驚きや恐れでも、ましてや悲しみでもなかった。一頭のクジラがようやく死にかけている仲間たちの集まる無人島を見つけ出したときに感じるような、なぜもっと早くこの場所を見つけられなかったのかという喜びにも似た思いだった。」
そのあと、「わたし」が取った行動が………。
ラスト、「わたし」が晩年を過ごしたリヒテルの旧居を訪れるところで終わります。静謐なシーンで、どこからかリヒテルのピアノの音が聴こえてくるような幕切れでした。
●レティシア書房ギャラリー案内
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」
⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)