レティシア書房店長日誌
アンネマリー・シュヴァルツェンバッハ「雨に打たれて」
彼女は1908年スイス生まれの作家です。自身はレズビアンで、27歳の時、ホモセクシュアルのフランス人男性と結婚します。当時、ヨーロッパではナチズムが勢力を伸ばしていました。ナチスに迎合する富豪の両親に反発し、女性写真家の恋人と共に中近東を方々旅します。帰国後、創作活動に入るものの薬物依存症に陥り、1939年に再度中近東への旅に出発しますが、その途上で第二次世界大戦が勃発して帰国。42年、自動車事故で34歳で亡くなりました。
彼女の作品は現存しているものが極めて少ないのです。ナチに傾倒していた母親が、反ナチを口にする娘の原稿を全て焼却してしまったためと言われています。この本には14作品の短編小説が収められています。(新刊2200円)
彼女の作品を読んでみたいと思ったわけは、車の前にパートナーらしき女性と座っているアンネマリーの横顔の写真を見たからでした。カッコいいい!
2022年の出版された本書に、山崎まどかがこんな文章を寄せていました。「シュヴァルツェンバッハは冷徹な観察者の眼差しと簡潔な文体で、オリエントの国々を彷徨う異邦人の荒涼とした自由、追放者の勲章としての孤独、そして過酷な運命を優雅に描いてみせる。」
やや感傷的な文章だと思うのですが、この短編集を読んでみると、そういう世界が広がっていました。「冷徹な観察者の眼差しと簡潔な文体」で、ファシズムに覆われてゆく世界に居場所を失い中近東に流れ着いた人々が登場します。
「そんなことよりも厄介なのは雨だ。濡れるからではない。大地が雨に洗われ、陰鬱という旗の下、なんの慰めもなく、悲しみに包まれてどこまでもつづくからだ。どんなに勇気を振り絞っても、こればかりはどうにもならない。私たちは一列になって黙々と進む。まるでだれもが孤独な旅をしているかのように。」
そう、彼らは孤独な旅をするしか、生きるすべを見出せないような存在なのです。ここでは中近東の、決して心地よくない天候の姿が、大きく登場人物たちに影響を与えているようです。
「蛾が部屋を飛びまわり、光に誘われてランプにぶつかる音がした。笠にもぶつかって、笠とガラスフードのあいだでガサガサと羽音を立てた。五十匹はいるだろう。薪がはぜるような音や濡れた洗濯物が風ではためくような音がする。熱せられて上昇する空気に引き込まれて、炎に焼かれることもあった。その度に激しく暴れる音がした。」
そんな環境で明日もわからない人生を生きる男を、女を、著者は突き放すこともなく、ひたすら淡々と描いていきます。情景がとてもリアルに伝わってくる小説でした。
●レティシア書房ギャラリー案内
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
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