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レティシア書房店長日誌

奥山大史監督作品「ぼくのお日さま」
 
 ドラマチックな展開でもなければ、涙が止まらないというような話でもありませんが、幸せな感情に包まれる映画です。
 

 アイスホッケーが苦手な吃音気味の少年。フィギュアスケートの選手からコーチになり、恋人の地元のスケートリンクで働く男。そのコーチに憧れながらフィギュアスケートの選手を目指す少女。この三人が、田舎の町にあるスケートリンクで、一つの夢を目指し、ほどけてゆく様を淡々と描いた作品です。
 何より、幸せな気分にしてくれるのが、スケート場に差し込んでくる太陽光線です。まるで天国から届いたみたいです。その光をバックにして少女が、そして少女への淡い思いを胸に、フィギュアスケートを始めた少年がリンクを滑ります。ドビュッシーの名曲「月の光」に乗って。この美しいメロデイーラインと、氷上を滑るスケート靴の音がブレンドされて、観る者を素敵な世界へと連れて行ってくれます。
 28歳の奥山大史監督は、本作が商業映画デビューで、原案、脚本、撮影、編集とマルチな活躍で作り上げました。カンヌ映画祭で上映され、上映後のスタンディングオベーションが8分も続いたそうです。
 監督自身、幼少の時にフィギュアスケートを習った経験から「雪が降り始めてから雪が溶けるまでの少年の成長を描きたい」という企画で、映画化がスタートします。その頃、ハンバートハンバートの名曲「ぼくのお日さま」に出会い、その歌詞によって主人公の少年の姿が浮かび、曲のタイトルをそのまま映画のタイトルに置き換えました。エンディングにはこの曲が全曲流れます。映画を観て曲を聴くと、本当に歌詞がそのまま映像でした。宮藤官九郎が、このエンディングをとても素敵だとコメントを寄せていました。
 スケート経験のある少年と少女がとてもチャーミングでみずみずしく、そこに寄り添う池松壮亮のふわりとした自然な演技が印象的です。中でも、三人が冬の間凍結する湖でじゃれ合い、スケートを滑るシーンは、寒いはずなのにとても温かくてキラキラしていて心に残りました。

 小説家の朝井りょうは、「鑑賞中、何度かスクリーンが光を吸い込んで膨らんだように見えました。この映画だけが持つ魔法だな、と思いました。」とコメントを寄せていましたが、よくわかります。温かでちょっと懐かしいような素敵な日本映画でした。

●レティシア書房ギャラリー案内
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
10/30(水)〜11/10(日) 菊池千賀子写真展「虫撮り2」

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)


町田尚子パレスチナ支援グッズ販売開始しました


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