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レティシア書房店長日誌

奈良中野美術館へ行きました。
 
 
奈良県、近鉄学園前のこじんまりした中野美術館へ、休日を利用して行ってきました。この美術館が所蔵しているなかに、私が大好きな松本竣介(1912年〜48年)の作品があります。早逝しましたが、都会の風景やそこに生きる人びとを、理知的な作風で描き今尚ファンの多い画家です。
 ミシマ社から出ている尾形亀之助の「美しい朝」(1760円)には、松本の素描が挿入されています。また、当店でも作品集「線と言葉」(河出書房新社/古書1450円)や、松本と親交を結んだ中野淳が没後の松本の評価まで網羅した文庫オリジナル版の「青い絵具の匂い」(中央公論新社/改定新版770円)は根強い人気があります。
 さて、今回出ていたのは「焼跡風景」(1946)でした。田園の風景も都会の町並みも、同じように美しく、静謐で、そして孤独な風景として受けとめていた松本は、終戦直後の焼け野原と化した都会の風景に美しさを見いだしていたようです。東京の無残な焼け跡を描いたこの作品は赤褐色を主調とした美しいものでした。

松本竣介「焼跡風景」

 展覧会には、第二次世界大戦の最中にアメリカで描かれた国吉康雄の作品や、須田国太郎、鳥海青児、林武など、版画では駒井哲郎の出世作「束の間の幻影」(1951)や、パリに生きた長谷川潔の代表作、舟越桂のリトグラフ「影のある光」(1993年)、併せて約30点が展示されています。(11月12日まで開催)
 そして、美術館には我々以外誰もいない!静かな空間で、ゆっくりと戦後日本を代表する洋画や版画を鑑賞するという、贅沢な時間を過ごせました。

中野美術館

 この小さな美術館は、創設者の中野皖司が、家業の林業に従事するかたわら約25年間に収集した近代日本の洋画・日本画コレクションを中心に、昭和59年3月に開館したそうです。HPにある創設者の言葉に、「凡そ個人のコレクションは、その人の好みや、情熱によってなされたものが大部分であり、それぞれのコレクターの個性なり美意識なりがうかがわれる」とありました。ここの作品は、中野皖司の美術に対する限りない情熱と審美眼によって集められたものばかりです。稼いだ分で文化に貢献する実業家はかつて日本に多くいました。中野皖司もそんな一人だったのです。京都から1時間ぐらいで行けます。人混みを避けてゆっくりと美術館と、その周りをぶらぶら散策するのもいいもんです。

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