見出し画像

レティシアショボウ 店長日誌「持続可能な魂の利用」


松田青子の長編小説「持続可能な魂の利用」(中央公論社/古書/900
円)は、刺激的で、頭の中がグラグラする物語でした。

「この一ヶ月考えてきたことだけど、私、日本に帰ったら、『おじさんを倒す」と、元会社員女性が、いわゆる”日本のおじさん”を駆逐するというお話なのです。
「毎日会社に行くたびに思うんです、わぁ、なんだ、このおっさん地獄は、って」わかりますよね、会社に世間に蔓延する「おっさん地獄」。
この小説は、そんな現状を打破してゆく物語なのですが、血沸き肉踊る系の女性の反乱小説ではなく、かなり凝った作りです。
巻頭、「『おじさん』から少女が見えなくなった当初は、確かに、少しは騒ぎになった。」という文章からしばらくは、頭の中が??だらけでした。

「世界で日本だけが取り残されようとも結婚する女性から名字を奪い、『家内』という言葉通り母親になった女性をそれまでの仕事や生活から引き剥がし、家の中に閉じ込める。出産は病気ではないという無理やりな主張を続け保険の対象外にし、無痛分娩は高額にし、陣痛の痛みを母親の愛の深さに紐付け、女性に罪悪感を抱かせるような社会通念を操作。育児手当金はすずめの涙レベルに設定し、保育園の数が足りることなどないように気を配る。ベビーカーの子ども連れへの苛立ちと嫌悪感が噴出する、子育てに理解のない社会を作り上げる。」

そんな社会の中で、主人公の元OL敬子は疲弊していき、こうつぶやきます。
「魂は減る。敬子がそう気づいたのはいつの頃だったか。魂は疲れるし、魂は減る。魂は永遠にチャージされているものじゃない。理不尽なことや、うまくいかないことがあるたびに、魂は減る。魂は生きていると減る。」

そして敬子やその仲間たちが考えたことが、おじさんを倒すという決意なのです。ラスト、見事におじさんを駆逐してゆくのですが、よもや、こんな結末を用意していたとは!日本の未来はこうか!

最後までシニカルに描き続けた作家の力量に、もう参りましたとしか言えませんでした。最近、国会で審議されていた「LGBT理解増進法案」。理解増進などという意味不明の法案に賛同したのは、間違いなく駆逐されるべきおじさんの代表です。

いいなと思ったら応援しよう!