レティシア書房店長日誌
アレックス・ガーランド作品「シビル・ウォー」
前評判では、戦場を体験させる映画と聞いていました。でも、まず感じたのがアメリカの自然の素晴らしさでした。ワシントンへと向かうジャーナリスト一行の車窓から見える森、木々の美しさ、そして聞こえてくる鳥の鳴き声。え?これアメリカの自然の美しさを見せる映画だったか?と思うほど。しかし、後半聞こえてくる軍用ヘリコプターの音は、まるで映画館にそのまま降りてくるような迫力で、その恐ろしい轟音に耳を塞ぎそうになりました。コッポラの「地獄の黙示録」でもヘリの音は巧みに使われていましたが、それ以上でした。
舞台は内戦状態のアメリカ合衆国。合衆国から離脱した”西部勢力”と政府軍が衝突し、西部勢力が首都へと侵攻しています。人民の前に全く姿を見せない大統領への単独インタビューを狙う、ベテラン記者サミーらの首都行きを描いたロードムービーのように展開していきます。なぜ軍事衝突が起こったのか、現状はどうなっているのかを、映画は何も説明しません。だから、サミーたち一行の前に何が待ち受けているのかわからないところが、怖いのです。道中、焼け焦げた車が放置されている場所を抜けたり、激しい銃撃戦に遭遇したりします。その一方で、普通に散歩している人、お店をやっている人たちが静かに暮らしている全く戦闘の痕跡のない街にも行き当たります。屋上を見上げると武装した男が数人いるのですが.......。
ホロコーストのような現場に直面し、危うく殺されかかったりしながら、一行はワシントンに到着します。マシンガンの咆哮、首都を進行する戦車の音、あちこちで起こる爆破音。激しい戦闘シーンがあるのはここだけです。
しかし、何故同じアメリカ人同士が戦っているのか、誰もが理解せずに興奮し、殺戮に没入しているのです。兵士だけではありません。サミーについてきた新人カメラマンのジェシーも、最初は戦場の恐怖に悲鳴を上げていたのに、銃撃や爆発の音に興奮状態になり、戦場を疾走してゆくのです。そして、ホワイトハウス突入に参加し大統領が虐殺されるシーンを目撃して、盛んにシャッターを切ります。その一枚が、殺された大統領の周囲に集まって笑みを浮かべる兵士たちのポートレイトでした。この写真がラストシーンに巧みに使われます。
アメリカは、かつてベトナム、アジア、中近東で戦争を引き起こしていました。その渦中では、こんな写真を撮った人たちもきっといたはず。普通の状態なら真っ当な判断ができるはずなのに、戦場では、極度の緊張と興奮で良心も道徳も吹っ飛ぶのです。だからこそ、平気で殺した人間の周りに集まって写真を撮れたのです。これは架空の物語ですが、過去に似たような事、やってたやろ!という監督の声が聞こえてきそうです。予想よりはるかによくできた映画でした。
●レティシア書房ギャラリー案内
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
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