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レティシア書房店長日誌

森ガキ侑大監督「愛に乱暴」
 
 映画「お母さんが一緒」(ブログでも紹介しました)で、長女を演じていた江口のりこ主演映画です。チェーンソーの似合う女優云々という評に誘われて観ました。チェーンソーを持って、人々を襲うというようなスプラッタムービーではありませんが、怖い映画です。
 原作は吉田修一の小説で、確か上下2冊の大作だったはず。それを2時間の映画にまとめ上げました。お見事です。

 江口が扮する主婦桃子は、夫の実家の離れに二人で住んでいます。義母(風吹ジュン)とは、適度な距離を保ちながら、それなりに上手く付き合っています。古くなってきた家のリフォームを計画し、石けん教室の講師を務めながら、それなりに充実した主婦の暮らしを送っています。
 しかし、近所のゴミ置場でボヤ騒動が起こり、懐いていたネコが行方不明になり、さらに夫の浮気が発覚してと、不安なことが起こる日々が続きます。それなりに充実していた石けん教室も突然閉鎖されてしまい、彼女の心がガラガラと崩壊していきます。主婦の日常が、かなり丁寧に描きこまれていて、これひょっとしたら脚本は女性か?と思ったら、やはり女性二人のユニットでした。
  少しづつ常軌を逸してゆく姿を、映画はほとんど江口のりこの表情の変化、突発的な行動、仕草だけで描いていきます。そしてある日、大型チェーン店で見つけたチェーンソーに、桃子はなぜだか魅かれていきます。
 夫の愛人の家を突然訪れ、自分の庭に出来ていたスイカを投げつけたり、義母が息子が好きだからと料理してあげて、と買ってきたカマスを暴力的に冷蔵庫に放り込んだりと、いよいよ不穏な状況へなだれ込みます。
 

 ついに怒涛の勢いで、チェーンソーを購入。居間の畳をひっくり返し、チェーンソーで床板を切り、縁の下を泥だらけで這いずり回る。もうホラー映画の一場面のようになってゆくのですが、チェーンソーで家族を切りつけるというような愚かな演出はありません。ラストシーンの能面のような桃子の表情に全てが集約されていきます。夫は帰って来ず、義母もここには住めないと勝手に家を売却して去っていきます。ゾッとするような表情で解体工事の様子を見つめる桃子。自分を括りつけていた「家」の呪縛から、その向こう側へと旅立ってゆく彼女がそこにはいたと思います。
 江口のりこ無くしては、成り立たなかった映画でした。

●レティシア書房ギャラリー案内
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

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