レティシア書房店長日誌
「ロスト・キング 500年越しの運命」
リチャード3世は、英国ヨーク朝最後のイングランド王(在位1483〜1485)で、薔薇戦争最後の王です。が、彼の死後、シェイクスピアの戯曲『リチャード3世』で稀代の悪王として描かれたことで、その人物像が定着していきました。敵対する王朝によって偽の像をでっち上げられ、シェイクスピアがそのままのイメージで戯曲化したものを、世間は信用してしまっていたのです。
2012年、500年以上にわたり行方不明だったリチャード3世の遺骨が、英国内のとある駐車場から発掘されました。その指揮を執ったのは、アマチュア歴史家のフィリッパ・ラングレーという女性でした。会社員として働きながら膨大な資料を集め、研究を重ねます。大学の研究者など専門家から嘲笑されながら、諦めることなく直感と信念で、リチャード3世の冷酷非情な王というイメージを覆し、王の真の姿を世の中に知らしめたのです。
「ロスト・キング 500年越しの運命」は、この実話を元に映画化されました。職場では上司から不当な評価を受け、家庭でも問題を抱え、筋痛世脳脊髄炎に苦しむフィリッパは、ある日、息子の付き添いで観た演劇「リチャード3世」の虜になります。そんな彼女の前に、なんと当時のコスチュームのままリチャード3世が現れるのです。他の人には見えない王に導かれるように、リチャード3世の真実の姿を探すことに夢中になっていきます。
現代の英国の街中にリチャード3世が佇んでいるところは、とてもファンタジックなのですが、フィリッパの地道な調査、研究のシーンは極めてリアルに描かれています。ファンタジックでありながらリアル、リアルでありながらファンタジック、という不思議な映画です。フィリッパを演じたのはサリー・ホーキンス。「シェイプ・オブ・ウォーター」では、水棲人と恋に落ちるこれまた現実離れした女性を演じました。取り立てて美人ではないのですが、あり得ないシチュエーションで普通に生きている女性を演じることのできる、とても上手い俳優です。女性のしんどさを抱えながら未知の世界へと飛び出す、その躍動感が大げさにならずに描かれていました。
リチャード3世の名誉を見事に挽回をした後、戦場に向かうために鎧兜に身を包んだ彼とフィリッパとの永遠の別れを描くシーンには感動しました。おすすめです。