レティシア書房店長日誌
「エリザベート1878」
19世紀末、最後の輝きを見せていたハプスブルグ帝国で、ヨーロッパ宮廷一の美貌と賞賛されてきたオーストリア皇妃エリザベート。1877年のクリスマスイブに40歳の誕生日を迎える彼女は、毎朝、コルセットでウェストを絞り、世間のイメージ通り美しい皇妃の姿を保ちながらも、日々の厳格で、形式的な公務にうんざりしていました。そして、そんな日常を一旦、放り出して彼女は旅に出ます。その40歳からの1年間を描いた映画が「エリザベート1878」(マリー・クロイツァー監督)です。
実在した人物の映画とはいえ、監督はモダンでフェミニスト的視点で彼女を見つめています。高い地位にありながら何の決定権もなく、迫り来る老いに怯えながら若い頃の美貌を求められる。彼女の内に溜まってくるフラストレーションと反発心を、ヴィッキー・クリーブスがものの見事に演じていきます。私の人生は決してお飾りではない、という現在にも通じるリアルなテーマを、19世紀末の世界を舞台に象徴的に描いた監督の力量は素晴らしく、演出だけでなく、美術、大道具、小道具、照明、カメラワークに至るまで全てに手を抜かず、完璧に作られているので画面がダレることなく最後まで緊張感を持って見ることができました。
「Corsage(フランス語:コルセット)」とタイトルが出ますが、何度も、何度もコルセットを締め付けるシーンの痛々しさでこちらも辛くなってきます。これこそが彼女を縛り付けるもの。ここから自由を取り戻そうとする彼女から目が離せません。そしてとても素敵なエンディングが待っています。このエンディングは今年1番!
ローリングストーンズの名曲"As Tears Go by"が、カバーされているのですが、いや驚きの使い方でした。上手い!
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