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レティシア書房店長日誌

青山通「ウルトラセブンが『音楽』を教えてくれた」

 円谷英二プロの30分TV特撮ドラマ「ウルトラセブン」の放映が開始されたのは1967年10月1日。そして最終回が翌年の9月8日。その時、小学生中学生だった少年たちは、最終回で泣いたはず!ハイ、私も泣きました。放映された次の日、泣いたよなと聞くと、うん、と答えたクラスメートが沢山いたのです。(蛇足ながら、大好きだったケイコちゃんに、見た?って聞いたら、見てないとつれないお返事でした。)
 何故に?あの、ラストシーンにです。そして、子供向けとはとても思えないピアノの曲に涙したのです。長い間、誰の曲なんだろうと思っていたのですが、青山通「ウルトラセブンが『音楽』を教えてくれた」(古書/新潮文庫450円)でようやく知ることができました。

 このドラマでは、主人公の地球防衛軍のダンと同隊員アンヌの間に淡い恋愛感情を漂わせていました。ドラマの中で、ダンは変身してセブンになるのですが、もちろんアンヌたち隊員には秘密です。ダンは長年の怪獣との戦いでボロボロになっていて、母国の星に旅立つときが迫っていました。そして、クライマックスでアンヌに告白します。
「僕は......僕はね、人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ」
 その瞬間、画面の映像は反転、二人がシルエットになり、なんと背景に銀の光がきらめくというトレンディドラマ並みの世界が展開します。ここで、哀愁のピアノが響きだします、これが、シューマンのピアノ協奏曲第一楽章の冒頭部分なのでした。その後もこの曲を巧みに取り込んで、夜明けの空をM78星雲に向かって飛翔するセブンを捉えてドラマは終わります。
 著者はこう語っています。「感動で身体が痺れた、自分にとってウルトラセブンは永遠となった。そしてこの日は自分にとって、クラシック音楽への扉が開かれた日ともなったのだった。」著者は1960年生まれで、「ウルトラセブン」を見ていた時は、小学1年生!1年生で特撮ドラマから影響を受けてクラシック音楽を学ぼうとしたなんて。私なんぞ数日間こそボ〜としていましたが、仲良しの女の子と遊ぶのに夢中で、音楽を調べるなんて全く考えもしませんでした。
 著者は、様々な演奏を聞き比べ「ウルトラセブン」最終回で流れたピアノ協奏曲を演奏していたピアニストも突き止めています。ルーマニア生まれのディヌ・リパッティ。「音楽の才能には恵まれたいっぽう、体質は虚弱で、悪性リンパ腫を患い、1950年、33歳の若さで生涯の幕を閉じた。直接の死因は敗血症といわれる。あの最終回に使用されたカラヤン/リパッティ盤の演奏は、亡くなる2年前、1948年の演奏だ。1946年から発症し、すでに体調は悪化していて、死期はそう遠くないという自覚があったとのことだ。」リパッティの演奏、カラヤンについて、シューマンについて、と話は続きます。
 本書は、そのタイトル通り特撮ドラマのヒーローから、音楽の楽しさと深さを知った著者の音楽人生を綴ったとても楽しい一冊でした。「好きこそものの上手なれ」という諺は、こういう人のためにあるんだと感心した一冊でした。


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