見出し画像

レティシア書房店長日誌

小西公大「へタレ人類学者沙漠をゆく」
 
 この本を読もうと思ったのは、帯に推選文を書いている三人の先生の文章でした。(新刊2200円)
 山極壽一先生「一人の人類学者が語る『自分壊し』の旅!」
 松村圭一郎先生「現代人類学のエッセンスが詰まった一冊だ」
 立命館大学小川さやか先生「異なる世界に乗り込んでいき、巧みな言語能力を駆使して驚くべき事実を発見する。そんな人類学者は虚像だ。引きこもり、失敗して怒られ、戸惑い、日々ゆらぐことの連続。だが世界を以前とは異なった形で受けとめあう可能性は、いつだって小さなゆらぎから生まれる」
 新刊が出れば真っ先に読んでいる方々にここまで書かれたら読むしかないと思い、正月休みに一気読み。これ、超絶的に面白い!
 

 「この本は、へタレ人類学者である『僕』が、インドで散々な目に遭う.....ではなく、インド(特に沙漠地帯)で貴重な体験を繰り返しながら変容していく、極めて個人的で赤裸々な内容を綴ったものだ。」だから、人類学の教科書ではありません、でも、読んだ後に、ヘェ〜人類学って面白そうな学問やと思うこと間違いありません。
 「『へタレ』にはいろんな意味を込めた。僕自身が持っている資質という意味もある。でもそれだけではない。思えば人類学者なんて、フィールドにおいてはみんなへタレているはずなのだ。それはそうだろう。自身の持っている価値観や世界観ではなかなか対応できない『異質さ』を求めて悪戦苦闘するのが人類学者なのだから。」なるほどごもっともです。全くコミュニケーションの取れない世界に飛び込んで、その社会を見つめようとすれば、それまで構築した理論も崩壊しかねません。
 著者は大学のとき、恩師に「人類学は、今、ここで起きているコトや世界を、自分事として引き受けることから始まるんだ。異質なものを異質なものとして見ていても何も生まれない。研究の対象は世界でもあるが、お前さん自身でもある。えらそうな論理で世界を切り取ることも大切だが、その前にまずは世界に飛び込みなさい。世界の異質さを存分に味わって、もみくちゃにされて、自分を壊してきなさい。話はそれからだ」と、ピシャリと言われて、インドへと向かいます。そして、インドの圧倒的パワーで、もみくちゃにされて、へタれへタれて、それまでの思考や認識の軸が揺さぶられて、あっちへふらふら、こっちへふらふらと彷徨い、そのゆらぎの渦の中から、変容してゆく様が軽妙に語られていきます。
 インドの沙漠に暮らす民の中に飛び込んだ著者は、自分にとっての「あたりまえ」が通用しない。そしてまた、そこに生きる人々にとっての「あたり前」の通用しない未熟者が、著者自身なのです。間違って怒られ、通じ合えずに惨めになったり、けれどある時は通じあったりして、嬉しさを共有する生活に飲み込まれていきます。
 「そして彼らも、僕のことを理解し始め、自身の在り方や、自らの『あたりまえ』を相対化し、差異に驚愕し、そして繋がり方を模索していく。僕もゆらぎ、彼らもゆらぐ。ゆらぎながら、ともに世界を創ってゆく。この絶え間なく、つらくも嬉しいぶつかり合いの長い長い過程こそが、『異文化理解』などと軽々しく表現できないような、忍耐のいる学びのプロセスなのだ。失敗や怒りは、この豊かな『ゆらぎの空間』を創造するための、最高の入り口なのだ。」
 インドへ着くなり帰りたいと思った著者が、ここまでに至った沙漠の生活を、経験はしたくないけど、引き寄せられる何かがあるように思いました。
そうして著者はめでたく自分壊しに成功したのでしょうか。それは、読んでのお楽しみ。

レティシア書房ギャラリー案内
2025年 1/8(水)〜1/19(日)古本市
1/22(水)〜2/2(日)「口を埋める」豊泉朝子展

⭐️入荷ご案内
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)

古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)
秦直也「いっぽうそのころ」(1870円)
折小野和弘「十七回目の世界」(1870円)
藤原辰史&後藤正文「青い星、此処で僕らは何をしようか」
(サイン入り1980円)
YUMA MUKUMOTO「26歳計画」(再々入荷2200円)
モノホーミー「自習ノート」(1000円)
コンピレーション「こじらせ男子とお茶をする」(2200円)
牧野千穂「some and every」(2500円)
マンスーン「無職、川、ブックオフ」(1870円)
笠井瑠美子「製本と編集者」(1320円)
奈須浩平「BEIN' GREEN Vol.1"TOURISM"」
小野寺伝助「クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書」(825円)
小野寺伝助「クソみたいな世界で抗うためのパンク的読書」(935円)

いいなと思ったら応援しよう!