レティシア書房店長日誌
佐多稲子「キャラメル工場から」
今回は、店長日誌であんまり紹介していない時代の作家を紹介します。1904年長崎生まれの佐多稲子です。今年3月にちくま文庫の新刊として「キャラメル工場から 佐多稲子傑作短編集」(新刊880円)が出ました。表紙が素敵です。
母親を結核で亡くし、小学校修了前に一家で上京した後、稲子は神田のキャラメル工場で働きます。このときの経験が「キャラメル工場から」という作品にまとめられ、彼女の出世作となります。東京本郷のカフェーにつとめ、中野重春、堀辰雄らと知り合い、創作活動をはじめます。1938年、「キャラメル工場から」を発表し、プロレタリア文学の新しい作家として認められます。
「彼女達はまる一日その板の間に立ち通しで仕事をした。それに慣れるまでにはみんな足が棒のように吊ってしまい、胸がつまって目眩を起こすものがあった。夕方になると身体中がすっかり冷えて腹痛を起こすものもあった。彼女達はみんな腹巻をして、父親のお古の股引を縮めて穿いていた。」
過重労働で低い賃金で働く少女行員達の労働の日々を描いた「キャラメル工場から」は、とても処女作とは思えない切れ味鋭いタッチに満ちていました。
本短編集には20代でデビューして以来、90歳近くまで書き続けた彼女の初期から晩年に至るまでの16作品が発表順に収録されています。1934年発表の「牡丹のある家」は、主人を失い没落してゆく家族を描いているのですが、都会で女店員として働き、胸を病んで出戻った長女こぎくの姿が痛々しい作品です。
1956年の「乾いた風」は、戦時中物資が不足して、すべて配給制度になって食事にも困るような状況下、とある町内を舞台に、そこに住む住民が乏しい物資を巡って歪み合う醜悪な姿を描いています。
「安田為次の小さな家庭は、長屋では仕合せな方にはちがいなかった。為次が酒をのまないし、四年生と二年生の女の子二人、両親のいいところばかりとったように二人とも目鼻立ちのととのったすんなりした子だ。」幸せな家庭だったのだが、為次が召集され、戦死したことからガラリと環境が変化してしまう。そこで目にする長屋の醜態……。
1950年の「薄曇りの秋の日」。これは、戦争が残していった傷を描いた傑作だと思います。母親と映画を観に行った息子が、帰りの電車で乗り合わせた若い娘がかつての幼馴染みだったことに気づきます。しかし、いま彼女は駐留米軍の兵士を相手にする女性になっていました。電車で一瞬交差する出来事から、敗戦で行き場を失った女性の姿を描いています。
戦争、労働、貧困の嵐の中を生きた女性達を見つめた短編集です。
●レティシア書房ギャラリー案内
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
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