米露関係の危機と核戦争の脅威:ラブロフ外相独占インタビュー全貌
副題 : 「独占インタビュー:ロシア外相セルゲイ・ラブロフが語る、アメリカとの戦争とその終結方法 — タッカー・カールソンによる洞察に満ちたインタビュー」
こちらの動画interviewを参考に制作させて頂きました。
今回の記事は以下「政治・経済・社会 の分析」マガシンに収録させて頂きます。6000文字近い記事となりますが、どうぞ、よろしくお願い致します。
序説:歴史的証言としてのインタビュー
2024年初頭、世界は未曾有の危機的状況に直面している中、セルゲイ・ラフロフ・ロシア外相は画期的なタッカー・カールソンの独占インタビューに応じました。このインタビューは、現代の国際関係が直面する根本的な課題と、その解決への道筋を示す貴重な一次資料としての価値を持っています。ウクライナ紛争の長期化、米露関係の極度の悪化、そして核戦争の脅威が現実味を帯びる中で行われたこのインタビューは、単なる外交的な声明や政策説明を超えて、世界秩序の転換期における重要な歴史的証言となっています。
ラフロフ外相は、米露関係の現状について、かつてない率直さで語りました。特に注目すべきは、核戦争の可能性や和平交渉の条件について、具体的かつ詳細な見解が示されたことです。外相は、アメリカとの直接的な戦争状態を否定しつつも、現在の状況を「ハイブリッド戦争」あるいは「代理戦争」として特徴付けています。この認識は、現代の国際紛争の複雑な性質を理解する上で重要な示唆を提供しています。
米露関係の現状:静かなる戦争の実態
ラフロフ外相は、インタビューの冒頭で、米露関係の本質的な性格について詳細な分析を展開しました。外相は「我々は米国との戦争を望んでいない」と明確に述べる一方で、現状が通常の外交関係をはるかに超えた対立状態にあることを認めています。特に注目すべきは、アメリカによるウクライナへの軍事支援の実態についての言及です。
外相によれば、ウクライナが使用している長距離精密兵器システムの運用には、米軍人の直接的な関与が不可欠であるとしています。この指摘は、表面上の「非戦争状態」と実際の軍事的関与との間に存在する深刻な矛盾を浮き彫りにしています。さらに、新型兵器システム「レスニク」の開発と実験について言及する中で、これが西側諸国への明確な「シグナル」として位置づけられていることを強調しました。
特に重要なのは、プーチン大統領が繰り返しアメリカ国民への敬意を表明し、アメリカの歴史や世界における成果を評価していると述べている点です。ラフロフ氏は、ロシアとアメリカが「宇宙のために協力できない理由はない」としながらも、現実には深刻な対立状態が続いていることを指摘しています。この発言は、両国関係の複雑さと、対話の可能性が完全には閉ざされていないことを示唆しています。
ウクライナ危機の歴史的展開:2014年からの軌跡
ラフロフ外相は、現在のウクライナ危機の根源について、2014年の政変にまで遡って詳細な説明を行いました。外相の証言によれば、この年の2月、ウクライナではヤヌコビッチ大統領と野党との間で重要な政治合意が成立していました。この合意は国民統一政府の樹立と早期選挙の実施を柱とするもので、民主的な政権移行を可能にする重要な機会でした。
しかし、この合意は実現されることなく覆されることとなります。ラフロフ外相は、当時の状況について具体的な証言を行っています。政変直後、新政権は「勝者の政府」を宣言し、これによって敗者とされた人々の権利や利益が完全に無視される事態となりました。外相は特に、アメリカのビクトリア・ヌーランド国務次官補と当時のウクライナ駐在米国大使との会話を引用し、新政権の人事についてアメリカが直接的に関与していた証拠として指摘しています。
さらに注目すべきは、政変後のウクライナ政府による一連の政策に対する分析です。2017年以降、ウクライナでは次々とロシア語や文化に対する制限が法制化されていきました。具体的には、ロシア語による教育の禁止、ロシアのメディアの活動制限、ウクライナ国内のロシア語メディアの規制、そしてロシア文化関連のイベントの禁止などが実施されました。図書館からのロシア語書籍の排除も行われ、最終的にはウクライナ正教会の活動も制限されるに至ったと外相は指摘しています。
ミンスク合意の真実:失われた和平の機会
2015年2月に締結されたミンスク合意について、ラフロフ外相は17時間に及ぶ marathon的な交渉の詳細を明らかにしました。この合意は、クリミアを除くウクライナの領土保全を前提としつつ、ドンバス地域の一部に特別な地位を付与することを定めていました。特筆すべきは、当時の国際社会、特にアメリカのジョン・ケリー国務長官との会談においても、クリミアの問題は議題に上らず、すべての関心がドンバス地域に集中していたという証言です。
ミンスク合意の具体的な内容は、ドンバス地域におけるロシア語使用の権利保障、教育の継続、地域の法執行機関の運営権限、そして裁判官や検察官の任命における地域との協議を含むものでした。さらに、ロシアとの経済的関係の維持についても規定されていました。外相は、この合意が完全に履行されていれば、現在のような危機的状況は避けられたであろうと強調しています。
しかし、ポロシェンコ大統領とゼレンスキー大統領の両政権下で、この合意の履行は実現されませんでした。特に皮肉なことに、両大統領とも選挙期間中には和平を約束していたにもかかわらず、就任後はその約束を反故にしたと外相は指摘しています。この背景には、西側諸国からの影響力が働いていたことも示唆されています。
イスタンブール交渉の真相:和平への道筋と失われた機会
ラフロフ外相は、2022年4月のイスタンブール交渉について、これまで明らかにされていなかった重要な詳細を語りました。外相の証言によれば、この交渉においてウクライナ代表団は具体的な提案文書を提示し、ロシア側もこれを受け入れる用意があったとされています。
特に注目すべきは、交渉の実務的な進展についての証言です。ウクライナ代表団の団長(現在はゼレンスキー大統領の議会会派の議長)は、数ヶ月前のインタビューで、合意の原則について双方が基本的な了解に達していたことを認めています。提案された合意案には、ウクライナのNATO非加盟を前提としつつ、ロシアを含む関係国による集団的安全保障の保証が含まれていました。さらに重要な点として、これらの保証がクリミアや東部ウクライナには適用されないことが明確に示されていたのです。
しかし、この重要な和平の機会は、ボリス・ジョンソン元英首相の突然の介入により失われることとなりました。ラフロフ外相は、ジョンソン氏の介入の背景について、アメリカの影響力が働いていた可能性を示唆しつつ、同氏の予測不可能な性格についても言及しています。「彼と数回会ったことがありますが、immediate(即時的な)欲求か長期的な戦略かにかかわらず、何かに動機づけられていたことは間違いありません」と外相は述べています。
核戦争の危険性:現実的脅威としての認識
インタビューの中で最も憂慮すべき部分は、核戦争の危険性に関する議論でした。ラフロフ外相は、特にNATOの一部高官による「防御のための先制攻撃」という考え方や、限定的な核攻撃の可能性に言及する発言について、深刻な警告を発しています。
外相は特に、「限定的核交換」という概念の危険性について強い懸念を表明しました。「これは災害への誘いです」という外相の言葉は、核戦争が制御可能であるという誤った認識に対する強い警告として受け止めるべきでしょう。さらに注目すべきは、米国のジョン・カービー国家安全保障会議戦略広報調整官の発言に対する批判です。カービー氏が核の応酬について「ヨーロッパの同盟国が苦しむことになる」と述べたことに対し、ラフロフ氏は「精神的にも、アメリカ本土への影響を除外している」と指摘し、このような認識の危険性を強調しています。
同時に、外相は核戦争防止のための具体的な取り組みについても言及しています。2022年1月には、国連安全保障理事会常任理事国の首脳による共同声明が発表され、核戦争は決して勝者を生まないという認識が共有されました。これは1987年のレーガン・ゴルバチョフ声明を踏襲するものであり、2021年6月のジュネーブでのプーチン・バイデン首脳会談でも再確認された重要な原則です。
シリア情勢と国際秩序の転換
ラフロフ外相はインタビューの中で、シリア情勢についても重要な見解を示しました。ロシアはトルコとイランとともにアスタナ・プロセスを組織し、シリアの安定化に向けた取り組みを継続しているといいます。外相によれば、このプロセスの基本的な目的は、シリア人同士の対話を促進し、分離主義的な動きを防止することにあります。
特に憂慮すべき状況として、アメリカによるシリア東部での活動が指摘されました。外相の証言によれば、アメリカはクルド人分離主義者を支援し、石油や穀物、塩などの資源を利用して影響力を維持しているとのことです。最近のアレッポ周辺での事態悪化を受けて、ロシアはトルコ、イランの外相との緊急会談を計画していると明らかにしました。
トランプ前大統領との関係と米国政治の影響
ラフロフ外相は、ドナルド・トランプ前大統領との直接的な接触について、興味深い個人的な見解を示しました。外相は、トランプ氏との数度の会談、特にホワイトハウスでの二国間協議について言及し、「非常に強い個性の持ち主で、結果を重視する人物」と評価しています。
しかし同時に、トランプ政権下でもロシアに対する制裁は「非常に大きな」規模で継続されていたという事実も指摘しました。これは、トランプ氏が「親ロシア的」であるという一般的な見方に対する重要な反証となっています。現在のバイデン政権の対ロシア制裁について、外相は「前例のない」規模であると形容しつつも、「我々を殺さないものは、我々を強くする」という格言を引用し、ロシアの対応能力について自信を示しました。
世界秩序の構造的変化
インタビューの後半で、ラフロフ外相は現代の国際関係における根本的な変化について分析を展開しました。特に注目すべきは、BRICSや上海協力機構の台頭が示す多極化の進展についての言及です。外相は、これらの組織が国連憲章の原則である「国家の主権平等」を実際に体現していると評価しています。
対照的に、アメリカの姿勢については批判的な見解を示しました。「アメリカは国家の主権平等を尊重することに慣れていない」と指摘し、特にバイデン政権下でのNATOの活動範囲拡大について懸念を表明しています。インド太平洋戦略、南シナ海問題、そしてAUKUSの設立など、アメリカの軍事的プレゼンスのグローバルな拡大を問題視する発言がありました。
国際法と人権問題に関する見解
ラフロフ外相は、国際法と人権問題について、特に注目すべき分析を展開しました。国連憲章の解釈について、西側諸国がウクライナの領土保全のみを強調する一方で、人民自決権や人権保護の側面を無視していると指摘しています。外相は、国連憲章の第一条を引用し、人種、性別、言語、宗教に関係なく、すべての人の人権を尊重することの重要性を強調しました。
特に興味深いのは、植民地解放過程との類比です。外相は、人民自決権が植民地解放の法的基礎となったように、現在のドンバスやノボロシアの人々の権利も同様に保護されるべきだと主張しています。「植民地の人々は、植民地支配者を自分たちの代表者とは見なさなかった」という歴史的事実を引き合いに出し、現在のウクライナ東部・南部の住民がキーウの政権を代表者として認めていない状況との類似性を指摘しました。
天然資源と国際政治の関係
インタビューでは、ウクライナの天然資源をめぐる国際的な利害関係についても言及がありました。ラフロフ外相は、リンジー・グラハム上院議員のゼレンスキー大統領訪問時の発言を引用し、ウクライナのレアアース金属の存在が西側諸国の関心を引いていると指摘しました。「この豊かな資源をロシアに渡すことはできない」というグラハム議員の発言に対し、外相は「我々は資源ではなく、何世紀にもわたってこの地で生活し、都市や工場を建設してきた人々のために戦っている」と反論しています。
米露関係の将来展望
バイデン政権からトランプ政権への移行の可能性についても、興味深い分析が示されました。ラフロフ外相は、現在のバイデン政権が、2016年のオバマ政権末期と同様に、次期政権に対して困難な遺産を残そうとしている可能性を指摘しています。2016年12月の外交官追放や外交財産の差し押さえの事例を挙げ、当時のオバマ政権の行動が米露関係の新たな出発を妨げたと述べています。
プーチン大統領のヴァルダイ・クラブでの発言
インタビューの中で、ラフロフ外相はプーチン大統領の重要な発言にも言及しました。プーチン大統領は最近のヴァルダイ・クラブでの講演で、ロシアが「2022年初頭の状況には決して戻らない」と明言したとのことです。これは、西側との対等な関係構築の試みが失敗に終わったという認識を示すものであり、ソ連崩壊後の楽観的な時期とは決別する姿勢を表明したものと解釈できます。
結論:危機の時代における対話の重要性
このインタビューは、現代の国際関係が直面する根本的な課題を明らかにする歴史的な証言となっています。特に重要なのは、核戦争の危険性に対する警告と、それを回避するための具体的な提案です。ラフロフ外相は、「professionals in deterrence」(抑止の専門家たち)が核戦争の危険性を十分に理解していると指摘しつつ、「限定的な核攻撃」という考え方自体が災害への誘いとなりうると警告しています
この証言は、単なる外交的な声明を超えて、現代の国際関係における根本的な転換点を示すものといえます。世界が多極化へと向かう中で、対話と相互理解の重要性は一層増しています。同時に、核戦争の脅威という人類共通の課題に対して、いかに協調して対応していくかという問題も提起されています。
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