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大山脈地帯に本屋を構える。【ブタコヤブックスご近所訪問】
名古屋の「笠寺」という町に、本屋を構える。
このエリアには、大きな遺跡公園をはじめ、大小さまざまな子ども連れが楽しめる公園が多くある。
ブタコヤブックスで購入した本を手に、公園で過ごす休日というのはいかが。
私自身にも、笠寺エリアの公園の思い出がある。
笠寺は厳密に言うと、私の地元ではない。笠寺の隣の中学校区に住んでいたため、この町にある公園は、「学区外」ということになる。
◇◇◇
「体罰」を社会が許していたあの頃。私が通った小学校には「子供たちだけで学区の外には出てはいけません」という校則があった。この鉄の掟が、児童の安全を守り、行動を支配していた。
30年前、私は小学生だった。
狭い学区を自転車で駆け回り、公園を巡った。
学区の子どもたちにとって、特別な公園があった。その名を「桜公園」という。学区の南にある桜公園にだけ、大きな山の形をした特別なすべり台「富士山すべり台」があったのだ。
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桜公園にわたる道をさえぎる、片側2車線の道路にかかる横断歩道の前に立つと、もう公園は目の前だ。この交差点から桜公園までの距離は、たったの80m。
信号が青に変わる。
大人たちが横断歩道を行き交う。
しかし私たちは、ここを渡ることができない。
そう、桜公園は、隣学区。ぎりぎり学区外なのだ。
「子供たちだけで学区の外には出てはいけません」
この信号を南に渡る姿がクラスメイトに見つかれば、チクられてしまう。教室とは相互監視の大部屋監房。体罰に寛容な時代だ、担任という名の看守にぶん殴られてしまうかもしれない。ここが私たちにとっての国境。
憧れの公園に入っていく隣学区の異国民たちを、片側2車線を走る車たちが隠して走る。脱学区者は、地下室行き。ざわ…
それでも勇敢なわたしたちは南に渡った。何度も渡った。青信号を一気に駆け抜け、桜公園へ。目指すは富士山滑り台。ここにいる同郷の友は皆仲間。チクリ魔の目は届かないユートピア。
ああ、なんてスリリングで濃密な時間だったのだろう。大人になってから、こんな気持ちになることはそうそう無い。そんな日々を思い出させてくれた一冊の本が、こちら。
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著:牛田吉幸 風媒社
名古屋市民には馴染みのあるこの遊具。この本によると、実は発祥は名古屋であるとのこと。正式名称は「プレイマウント」。
富士山すべり台第1号が作られたのは50年も前。今ではこの遊具を作る職人さんが減ってきてしまっているそうだ。
100を超える数の大量の富士山すべり台が同じ角度から写真に収められ、解説文と共に丁寧に掲載されている。何よりすごいのは、富士山すべり台を写した写真に、人も影も映っていないというところ。
わざわざ、影が映らない正午や、人がいない平日や猛暑日、お盆を狙って撮影されたそうだ。偏愛を通り越した狂気すら感じる。
そんな偏愛と狂気に満ち溢れたこの素敵な本をめくっていると、なんと我らが笠寺の特集ページが!
どうやらこの笠寺界隈は、先の桜公園をはじめ、富士山すべり台をもつ公園がコンパクトにまとまっている富士山密集地帯であるらしい。知らなかった。
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桜公園、杓子田公園、笠寺公園、芝公園、白雲公園の5山に、粕畠公園の石の山&クライミングスライダーを加えた6つの山。
桜公園に憧れていたあのころの私に教えてあげたい。それは本当に氷山の一角だったと。奥には「笠寺山脈」がそびえているのだと。
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よく見ると「すべらないでね」の文字が…
表面がざらざらしてしまっているので
ズボンが破れるかもしれないとのこと
「日本人なら死ぬまでに一度は富士山を」なんて言葉をよく聞くけれど、登山を舐めてはいけない。自然は怖い。
それなら手軽な「笠寺山脈縦走の旅」はどうだろうか。「公園遊具は子供のもの」だなんて、誰が決めたのだ。毎日がスリリングだったあの頃に、タイムスリップしてみてはどうだろうか。
なぜ山に登るのか。そこに、山があるからだ。山頂で、ブタコヤブックスで購入した本を読むなどをしてみるのもどうだろうか。