見出し画像

笑いながら「退職」を宣言してきた

校長室の前に立つ。


「今、お時間よろしいですか?」と私。

「えぇー、やだ、寒いもん」と、おどける校長。


「私が温めましょう、相撲取りましょ、相撲」

「わはははは!」



そんな会話から「退職宣言会談」は始まった。

こんな大きな決断ができたのは、フランクに喋れるこの校長のおかげでもある。



「今年度いっぱいをもって、退職させていただきたいと思います。」



しばらく相撲の話なんかしていたもんだから、一切緊張することなく、スルスルと言うことができた。

どちらかというと、相撲の話にかけた時間の方が長かった。




「本屋さんができたらね、職員のみんなを連れて行っちゃうからね」

「そりゃもう喜んで、ただ、ちゃんと財布持って来てくださいね」

「わはははは!」




口に出してしまえば、なんとまあ、あっさりしたもんであった。




「みんなでガヤガヤ押しかけて、うるさくしちゃうからね」

「チャリンチャリンと、そいつは私の耳にはお金の音にしか聞こえませんな」

「わはははは!」




そんなこんなで、退職することを正式に宣言することができた。



◇◇◇



ほっとして、職員室のデスクに座る。
時計を見ると、まもなく、朝の9時30分。

1時間目の授業が音楽専科の教員による授業であったため、その空き時間を利用して、校長室に乗り込んだのだ。



2時間目が始まった。
子どもたちがこちらを見ている。

学級担任としてこの景色を見ることができるのも、あとたったの3ヶ月だ。



「連絡帳書くぞ~」
「配布物があるから、連絡袋出して~」
「欠席調べ、保健係さん出てきて~」


朝の会の、何気ないワンシーン。


「音読カードを回収します、後ろの人お願いね」
「せんせい、音読カード、わすれました」
「連絡帳に”音読カード”って書きなさい」


子どもとの、よくあるやりとり。


「今日は、2時間目に国語のテストをやります」
「アレルギー除去食、給食当番注意してね」
「終業式が近いから鍵盤ハーモニカは持ち帰りな」


大小様々な「担任業務」。



正式に退職を宣言したら、
「いつも通りの日常」が、やたらと特別なものに見えた。


この3ヶ月を大事にしようと思えた。

本屋の準備をする3ヶ月であると同時に、学級担任としての集大成となる3ヶ月でもある。


少しだけ寂しいけれど、その特別な日々を大切にしながら、次に進む準備をしようと思う。



◇◇◇



「なんだこの店は、相撲を取るにはちょっと狭いんじゃないか?」

「店主の私がちょっと大きいだけですわ」

「わはははは!」




私の本屋で校長と笑い合う日を迎えるのが、楽しみである。