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一冊も売れない45分間に、店主が考えていたテトリスのこと。【せと末広町 本のさんぽみち】

時計を見ると10時45分だった。

開始から既に45分が経過していた。

45分といえば、授業1コマ分だ。
座っていたら1時間目の授業が終了していたのだ。
やっとの一冊を売った私は、授業とは比べ物にならない疲労感を抱え、椅子に倒れ込むように座った。

両サイドを古本販売の玄人に囲まれ、孤軍奮闘する素人の私。

何を隠そう、昨日、せと末広町ほんのさんぽみちに出店したのだが、始めの45分間に一冊も本が売れなかったのだ。

「立ち上がりがちょっと重たいですね」
「こっからでしょ!勝負は!!」

私の中の小さな松木安太郎と実況していたら、前半戦が終わっていた。


左右のお店には人だかり。
私のお店の前にだけ結界が張ってあるのかな?という時間帯が続いた。

ゴール前は、がら空きなのに!!

耐え凌いだ立ち上がり45分間の切ない気持ち。


この感じ、何だろう。

テトリスに逃げたくなるこの感じ。

何だっけ…。




そうだ。

思い出したくないことを思い出した。

高校一年生の頃、私はクラスに馴染めなかったのだ。


語尾に「◯◯だし!」という言葉を多用する人気者と、後に逆に大いじめに合うやたらと声がデカい人気者に挟まれた教室の座席で、私はガラケーを両手で必死に握りしめ、休み時間にひたすらテトリスをプレイしていたのだった。



テーテレテーテレ
テーテレテーテレ
テーテレテーテレテーテーテー



脳内にずっとテトリスのBGMが流れていた。
脳内にだけである。


教室にBGMを流す人権をもっていなかった。


おかげでめちゃくちゃテトリスが上手くなった。
この特技が生かされる機会にはまだ出会えていない。


高校一年生の頃に考えていたことを円グラフにすると、横向きのモンスターボールみたいな形になって、50%が「早く帰りたい」。のこりの50%が「長い棒来い」…みたいな調査結果に終わると思う。





ついに、長い棒 お客様が、来たのだ。





今日はじめてのお客さまは、ヨシタケシンスケ氏の絵が可愛い『はじめての哲学』を買ってくれた。


あまりに嬉しかったので、500円の値札を付けていたが、45分耐え凌いでいたことを白状した上で、

「嬉しいので!もう300円でいいです!!」

と伝えると、お客さまは、

「エッ」

という、言葉にもならない音を発せられていた。


値下げが嬉しかったのか、私の負の圧が気持ち悪かったのか、の、どっちかだったと思う。

ありがたいことにそこから先は、ちょこちょこちょこと本が売れた。


今回反省しているのは、選書。

古本市って本来そういうものだとは思うけれど、あまりに「不要な本」ばかり持っていったので、本を並べながら「なんか違うナァ…」ってずっと思っていた。



次回は20日に円頓寺の本のさんぽみちに出店するので、そのときはもっと「お気に入りで手放したくないけど別の持ち主のところに行っておいで」というマインドで本を選んで販売してみようと持った。きっと、そっちの方が体重が乗って、楽しいと思う。

小学校教員らしさをちょっとでも出してみようと思い、折り紙に「本屋開業準備中です」と印刷して、チラシの配布をしてみた。


そのせいで娘の折り紙ストックが黒色だけになってしまった。



想像してみて欲しい。折り紙の箱を開けたら、黒色しか残っていないという絶望を。色のない世界に、娘を置いてけぼりにするわけにはいかない。


さんぽみちの会場ではどんなに素敵な本よりも、まずは折り紙を探さなくてはいけないということが決まった。

娘の笑顔と、この世界に、彩りを取り戻さなくてはならない。

はたして、会場に、折り紙なんてあるのだろうか。





あった、あったのだ!!



商店街の一番端っこに、昔ながらの文房具屋があったのだ!


ボランティアスタッフをやってくださっていた犬飼さんが、そんな私に何かの売人よろしく「あそこに(折り紙)あるよ」と教えてくださったのだ。

恩人だ。


そうだよね!商店街ってそうだよね!!

商店街イコールシャッター街という今の世の流れの中、せと末広町商店街は、胸を張って商店街だった。嬉しかった。



そして、もうひとつ嬉しかったことがある。なんと、ちょくちょく「実はSNS見ています、応援しています」という声を掛けてくださる方がいらっしゃったのだ。


おい、テトリスやってる1年のクソ坊主!!



見てくれている人は見てくれているぞ!!



お立ち寄りくださったみなさま、本当にありがとうございました!!




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というわけで、嬉しかったので帰りに家族で売上金全額投入して焼き肉を食べて帰った。

食べながら頭に、

「読むように食べる」


とか、

「人は食べるものと読むものでできている」



とか、

どこかの誰かが言ってそうな類の言葉が浮かんでは消え浮かんでは消えたけど、関係ないなぁ~って思いながら、肉を噛んでは飲み込んだ。


というわけで、せと末広町本のさんぽみち出店レポート、これにておしまい。運営関係、ボランティアスタッフの皆様、ありがとうございました。

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