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『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』田内学
概要
『お金のむこうに人がいる』は、専門用語や難しい計算式を一切使わず、誰でも経済を理解できるように書かれた入門書です。著者の田内学さんはゴールドマン・サックスで金利トレーダーとして16年間働いた経験から、経済の本質を「お金ではなく人を中心に考えるべきだ」と主張します。本書では、「誰が働いて誰が幸せになるのか」という視点を軸に、資本主義社会やお金の役割について具体的な例を交えながらわかりやすく解説しています。また、「原価は存在しない」「価格と価値は異なる」など、これまでの常識を覆す新しい視点を提供します。経済が自分たちの生活にどのようにつながり、支え合いで成り立っているかを考え直すきっかけを与えてくれる一冊です。
本のジャンル
経済、社会問題、ライフスタイル
要約
1. 経済を考える上での基礎視点:「誰が働いて誰が幸せになるのか」
著者は、経済の複雑さは「お金」を中心に考えることから生じると述べています。そこで重要なのが「お金のむこうに人がいる」という視点です。この考え方では、すべての経済活動は人の労働を通じて成り立っていることを示しています。たとえば、私たちが飲み物を買うとき、その背後には製造者、運送業者、販売者といった多くの人々の労働が存在します。こうした「人」のつながりが、社会の基盤を支えているのです。
2. 「原価は存在しない」という真実
本書では「原価は存在しない」という挑戦的なテーマが提示されます。たとえば、食べ放題のビジネスモデルを考えると、料理の「原価」を突き詰めていくと最終的に自然界の資源に行き着きます。牛肉や野菜といった素材は自然が生み出したものであり、そこに人の労働が加わることで商品となります。この考え方は、ピラミッド建設の例でも強調されています。当時、貨幣経済がなくても、労働力を集めることで巨大な建造物が完成しました。つまり、物を生み出す本質はお金ではなく「労働」なのです。
3. 価格と価値のズレ
本書では、「価格」と「価値」は一致しないことが説明されています。たとえば、1本1000円のワインと10万円のワインを比較したとき、価値の感じ方は人によって異なります。価格が高いからといって、必ずしも効用(満足感)が大きいわけではありません。著者は「良いワインかどうかを決めるのは飲む人自身だ」と述べ、効用の主観性を強調します。私たちが価格に振り回されるのではなく、自分自身の価値観で物事を判断することが重要です。
4. 「社会の財布」を見るという視点
多くの人が自分の財布の中身だけを気にしていますが、経済を正しく理解するためには「社会の財布」に目を向ける必要があります。新国立競技場の建設費1500億円の例を考えると、このお金は工事関係者、材料業者、さらにはその先の取引先へと巡り巡っています。経済の視点から見れば、この1500億円は消えたのではなく、日本国内で循環しているのです。こうした視点を持つことで、経済活動の全体像がより明確になります。
5. 時間軸と空間軸で捉える経済
経済には2つの視点、すなわち時間軸と空間軸があります。時間軸では、過去の人々の労働が現在の私たちの生活を支えています。たとえば、親世代の労働が子どもの教育費となり、その結果、次世代が社会で活躍する基盤を築くことができます。一方、空間軸では、現在の社会での労働が互いに支え合い、今の豊かさを実現しています。この2つの軸を意識することで、経済活動の広がりとつながりが見えてきます。
6. 未来の経済を考える:「謎」との向き合い方
本書の最終章では、著者が読者に「経済の謎」を考えることを提案しています。この謎は、「なぜ経済成長を目指し続けるのか?」という問いに関連しています。私たちは成長を求める一方で、持続可能性や環境問題といった課題にも直面しています。この矛盾をどう解決すべきなのか。著者は、経済の未来を考える上でこの謎を一人ひとりが考え、自分なりの答えを見つけることが重要だと述べています。
まとめと感想
『お金のむこうに人がいる』は、経済という難解なテーマを、極めてシンプルかつ人間味あふれる視点で解き明かした一冊です。「誰が働いて誰が幸せになるのか」という問いを軸に展開される内容は、読者の心に深く響きます。お金を使うことが誰かの労働への対価であり、それが社会全体を支える力になるという視点は、日々の生活を見つめ直すきっかけを与えてくれます。また、「原価が存在しない」「価格と価値は一致しない」といった発想は、経済学の常識を覆すものです。
本書は経済初心者から専門家まで、幅広い層に読まれるべき一冊です。リンク先のレビューでも「読むたびに新しい発見がある」「視点が変わった」といった感想が多く寄せられています。経済の基礎を学びたい方、社会問題に関心がある方にぜひおすすめです。
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