人生に、余白を。本と人が交わる実験場NoDo_ ― シェア書店インタビュー#1
複数の人が「棚主」としてお店の書棚を借りて本を販売する、共同運営型の書店「シェア書店(シェア型書店)」が全国で広がりを見せています。私たち「本のある場所研究会」は、全国のシェア書店の実態調査を進めながら、シェア書店のオーナー、棚主さんが繋がり、学び合うコミュニティづくりに取り組んでいます。
これから当研究会のnoteマガジンにて、シェア書店のオーナーさんへのインタビュー記事をお届けしていきます。コミュニティ参加型雑誌『イコール』とも連動して、紙面上でもシェア書店特集を展開していく予定です(2024年9月発売予定の第2号の情報はこちら)。
インタビュー第1回は、東京・目黒区に今年の4月に開業した「NoDo_」さんです。店主の深澤弘至さん、副店主の深澤みどりさんにお話いただきました。
漠然と抱いていた憧れが、シェア型書店との出会いでかたちに
―これまでのご経歴について、簡単にお聞かせください。
深澤弘至(以下、弘至):生まれは東京の目黒区で、小さいころから父に連れられてよく図書館に行っていました。毎週、本を読みに行って借りてくるのが楽しみでした。
高校に進学するタイミングで引っ越しをして、なんとなく大学に進学して合気道部に入部しました。先輩などが警察官になる方が多く、自分も子供の時の憧れを思い出し、警察官試験を受けるも面接でいつも不合格でした。某ハンバーガーチェーン店でバイトをしながら頑張りましたが、警察官試験の年齢制限がきてしまい断念。その後、チェーン店でのバイトから正社員に登用され10年ほど勤めましたが、色々な事情で退職しました。
ちょうど、祖母の介護をしている母を手伝うなかで、介護の世界へ転職しました。何度か転職や離婚の経験を経て、現在の妻と再婚しました。
妻とは、「なんとなく将来ブックカフェやれたらいいな」という漠然とした夢を語っていたのですが、ある日、吉祥寺の「ブックマンション」に出会ったことが転機になりました。同店のシェア型書店のシステムに感銘を受けて、半年足らずで現在のNoDo_を開業しました。
深澤みどり(以下、みどり):生まれは大阪、育ちは三重の関西人です。6年前、友人が仕事や結婚でみんな上京したのが寂しくて、私も上京しました。地元と東京合わせて10年ほど介護士をし、夫と結婚し、すぐ息子を授かりました。子育てしていたら、以前通っていた料理教室の先生から、新たに開店したお弁当屋さんのスタッフとしてお声がけいただき、そちらで3年ほど働かせてもらいました。そうこうしていたら夫がNoDo_を開業したので、今はお店を一緒に運営しています。主にチラシの制作や夫のゴーストライター等をやっています(笑)
―本屋にまつわる思い出やご経験について、お聞かせください。
弘至:町に本屋が必ずあることがあたりまえだったので、出先の際には無意識に必ず本屋には足を運んでいました。
ですが、自分が低学年のときにファミコンが販売され、アニメや映画など他の娯楽にも熱中してしまい、本を読まなくなってしまいました。それから大人になり、生き方に悩んでいた際に何気なく本屋で本を購入してから、また本を読むようになりました。
常に本屋が町の近くにあることで、また本の世界に戻ってこられたという実感があり、本屋があることや本に対して感謝の気持ちです。私にとっての本屋は、いつでも帰ってこられて、楽しいことやつらいことを含めて自身と語らえる故郷なんだと思います。
みどり:両親、特に母が大の読書好きのため、家族で本屋さんへ行くのが当たり前の習慣でした。各々選んだ本を手に持ってレジ前に集合するのが面白かったです。同じ家に住んでいるのに、選ぶ本が全然違うので!その本も面白そうだね〜なんて言い合って、和気あいあいとしていました。
はじめての独立開業、喜びも苦労も味わいながら一歩ずつ…
―シェア書店をはじめたきっかけや目的について、お聞かせください。
弘至:前述のとおり、吉祥寺のブックマンションの出会いが一番衝撃的でした。「本屋さんやりたいなぁ」という思いはありましたが、本屋経験もなければ、出版業界に携わったこともなく、人脈や事業の経験もない普通のサラリーマンだったので、そのことを言い訳にして気持ちの片隅にしまっておいたんです。
ですが、シェア型書店のシステムに出会ったときに「これなら自分も出来るんじゃないか!?これは自分がやりたかったことかもしれない!」と何かに突き動かされるように開業をしてしまいました。
全国的に書店が閉店しているというニュースもあって、紙の本がなくなるかもしれないということにも危機感を抱いていたので、少しでも書店が増えてほしいし、自分もその1店舗になれれば良いなという思いがありました。
みどり:夫は「シェア型書店をやりたい!」と言い出したのに、チラシも名刺も全然出来ていなくて…。今はそういった紙ものは必須ではないかもしれませんが、「初めての独立開業なんだから、やれることは片っ端からやらんかい!」と、見ていられず、つい…手を出してしまったのがきっかけで、今はどっぷり運営に関わっている感じです…もう少し穏やかに妊娠生活が送れると思ったのに!(笑)
―シェア書店を運営してみて良かった点と、大変だった・苦労している点を、それぞれお聞かせください。
弘至:やはり本に囲まれている空間は、何よりも落ち着けますし、時間の流れがゆっくりと感じられます。サラリーマン時代では体験できない感じですね。
また、棚主さんやお客さまがお話をされて楽しんでいる様子などを覗きみることがとても嬉しいですね。
反面、せっかくお店番や販売をしているのにお客さまの来店や売り上げがないことで、棚主さんのモチベーションが下がってしまうんじゃないかという心配(もちろん、自分自身も)があります。そこが苦労していることですね。
「考えるとこはそこじゃない!」と常に妻に怒られています(笑)
みどり:夫と同じく、本に関わっているのが幸せだなと感じました。自分は思ったより本が好きだったんだなーと驚いてます。自分のコンフォートゾーンでは出会えなかった棚主さんとお話できるのもとても楽しいですし、棚主さんのあたたかさにも触れられて、とてもありがたいです。
大変なのは、夫のメンタルケアです!(笑)私は以前勤めていたお弁当屋さんでの経験や、両祖父母が飲食店をやっていたこともあり、個人店の現実を肌で感じていたんですね。シェア型書店は棚主さんありきの業態なので、そこに運営の未来を大きく左右される不安定な現実も見えてました…。なので、目の前のことに一喜一憂せず、粛々とやることやらんかい!!と夫のお尻を叩いております(笑)
本をきっかけに人が集う遊び場に
―これからの展望をお聞かせください
弘至:展望としては、シェア型書店の可能性の一つとして、色々なことをやっていくなかでNoDo_らしさを出していければと思います。
自分の中では、本は一つのきっかけで、そこに集まった人が何か新しいことチャレンジしたり、やりたいことを実現する手助けが得られたりする場所になれればいいなとは思っています。
本屋ではあるけど本屋じゃなくてもいい、ある意味実験場として常に変化して色んな取り組みを模索していきたいと思っています。
7月から営業時間変更や新刊の取り扱い開始などを行いました。今後は雑貨販売も視野に入れて活動中です。
みどり:.夫と同じくです。先ほども申し上げましたが、棚主さんありきの業態で、運営をそこに大きく左右されるのは現実的には続けられないだろうと。シェア型書店も増えていますしね。たくさん実験してNoDo_で遊びたいです!そしてその喜びを棚主さんやお客さまに還元したいです。
あと、本とアート、そして人とのコミュニケーションがもっと身近なものになればいいなぁと思っています。子育てしていると、心の乾いた大人が増えていることに対してとても危機感を覚えるので…私たち現代人の心を潤す、その一助になれればと思います。
(インタビューここまで)
東急東横線の学芸大学駅近くの閑静な住宅街に開店したNoDo_。本と人が好きで、本を通した交流や表現の場をつくりたいと意気投合したお二人の意欲が伝わってくます。単なる本屋ではなく、さまざまな実験の場にしたいということ。どんな展開が現れるか、楽しみです。
執筆:都築 功
店舗情報
シェア型書店「NoDo_」
〒152-0001 東京都目黒区中央町2丁目3−8
東急東横線「祐天寺」または「学芸大学」駅より徒歩10分
東急バス「水道局目黒営業所前」より徒歩1分
2024年4月18日(木)オープン
入会金 5000円(税込)
月額 ひと棚につき3850円(税込)
店主:深澤弘至
副店主:深澤みどり
コミュニティ参加型雑誌『イコール』2号近日発売―特集「本」のある町、「本」のある場所。
橘川幸夫責任編集、コミュニティ参加型雑誌『イコール』2号が2024年9月に発売予定です。特集「『本』のある町、『本』のある場所。」では、シェア書店の調査報告や、NoDo_を含む全国各地のシェア書店オーナーさんインタビューなどを掲載します。
最新情報・販売情報は以下のページでお知らせします。
『イコール』2024年秋号・予告マガジン
BOOTH、深呼吸百貨店、橘川幸夫責任編集『イコール』2号(一般向け販売)
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