本を通して、地域に新しい文化をつくる「100人の本屋さん」ーシェア型書店インタビュー#2
複数の人が「棚主」としてお店の書棚を借りて本を販売する、共同運営型の書店「シェア書店(シェア型書店)」が全国で広がりを見せています。
私たち「本のある場所研究会」は、全国のシェア書店の実態調査を進めながら、シェア書店のオーナー、棚主さんが繋がり、学び合うコミュニティづくりに取り組んでいます。
本日は、シェア型書店インタビュー第2回をお届けします。東京・世田谷のコワーキングスペース「100cube」・棚貸し書店「100人の本屋さん」・イベントスペース「100work」の複合拠点を運営する、吉澤卓さんにお話を伺いました。
前回のインタビュー記事はこちら(目黒区・NoDo_さん)
小売酒屋を営んでいた祖父の思いを引き継ぎ、地域のためにできることを
ーシェア型書店を始めたきっかけを教えてください。
吉澤卓さん(以下、吉澤):2021年2月からこの場所で活動を始めました。もともとは本屋ではなくコワーキングスペースとして検討していたんです。祖父が小売酒屋をやっていた場所だったこともあり、建て替えた後の建物の空きフロアを利用することにしました。
この場所は祖父が営業していた土地でもあり、その思いを引き継ぐ形で何かできないかと考えたのがきっかけです。地域の中には昼間に現役層が少なく、通勤で日中街を離れる方が多かったんです。静かな昼間の街を見て、地域で働く人がもっと増えたらいいなと考えました。
パクチーハウス東京を運営していた佐谷恭さんが運営していたコワーキングスペースを利用したことがあったので、その発想に刺激を受けていました。彼のスペースは閉店してしまいましたが、地域型の場所作りの重要性を感じたんです。
ちょうど2019年頃、吉祥寺の「ブックマンション」さんの存在をネットで知り、知人が棚を借りていたこともわかって興味を持ちました。そこで、自分もこの場所で本棚シェア型の書店をやってみようと思ったんです。本屋という業態自体は縮小しているもの本が持つ力や価値はまだまだ大きいと感じていました。本は死んでいない、むしろ、関わり方次第で新しい文化が生まれるのではないかと。
店主と棚主の関係づくりやSNS活用、試行錯誤の日々
ー店舗オープン後の反響、運営上の工夫やお悩みを聞かせてください。
吉澤:ワーキングスペースと棚貸しの書店と組み合わせたところ、思いのほか多くの人が関わってくれました。しかし、棚を借りた方々にどう関わってもらうが課題でした。本が動くこと=売れることが一番わかりやすい楽しみなので、どうすればもっと活発になるかは常に考えています。3ヶ月に1回はお店番をお願いするなど、関わり方のルールをもっと明確にしておけばよかったかもしれませんね。他のシェア書店のように、運営側にまわってもらえる仲間づくりなども考えてもよかったと思います。店主と棚主さんの距離感をどうするかは、お店ごとに違いがあるところですが゙、100人の本屋さんでは、もうすこし関わり合える関係が゙必要だと感じています。
SNSの活用も課題のひとつでした。店主はそれなりに活用していますが、棚主さんは、かならずしもSNSを活用しているとはかぎりません。発信に消極的な方や、アカウントを持っていない人もいます。でも、個人でなにかの活動を活発にするという視点では、SNSの活用はご自身の棚や本屋さんの活性度に直結する部分があるので、避けては通れないと思っています。
棚主さん同士の交流や情報共有のためにFacebookグループを作りましたが、それ以外にももっと積極的にSNSを活用していただくような働きかけが必要だったかもしれません。SNSが苦手な方でも無理なく発信できるようなサポート体制を作ったりしてもよかったですね。たとえば、投稿テンプレートの用意や、簡単なSNS講座を開催するなど、運営側がもっと工夫していれば、発信のハードルは下がったかもしれません。
世田谷の福祉事業所「ハーモニー」で生まれた『幻聴妄想かるた』 地域の魅力をこのお店から広めていきたい
ー地域の人たちとの交流はいかがですか。
吉澤:世田谷という地域は、歴史的に市民活動が盛んな土地柄です。ハーモニーさんという精神障がいの方が通所するスペースで制作されたカルタを紹介しています。この作品は、世田谷らしさがつまっているなと感じるので、このお店からも広められたらと思っています。カルタ大会の出張イベントなども開催したことがあります。カルタ大会では、参加者が自然と笑顔になる瞬間が多く、障がいの有無に関係なく楽しめるイベントとして好評でした。こうした活動を通じて、地域の人々と本や印刷物を通じた新しいつながりを作っていきたいと思っています。
「ハーモニー」を運営する新沢克憲さんのブログ
『幻聴妄想かるた』
『同じ月を見上げてーハーモニーで出会った人たち』
本の文化はまだまだ衰えていない
ー今後の展望をお聞かせください。
吉澤:純粋に本屋として人が集まる場であり続けたいです。同時に、シェア書店としての魅力も高めていきたい。本の文化はまだまだ衰えていません。むしろ、地域と連携し、共に成長していく場所として発展させていきたいと考えています。
また、今後は地域の他の店舗や団体と連携し、イベントやコラボレーション企画も積極的に行いたいと思っています。本だけではなく、音楽やアート、地域の歴史や文化に触れる機会を増やすことで、より多様な人々が集まり、地域全体が活性化するような場にしていきたいです。
(インタビューここまで)
執筆:浅沼正治
店舗情報
100人の本屋さん
〒154-0023 東京都世田谷区若林4-25-14コーナー松陰2F
070-8438-2636
東急世田谷線松陰神社前駅歩いて50歩、ファミリーマート上の2F
店主:吉澤卓
イベントお知らせ:2月8日 第1回シェア型書店・棚主会議(Zoom開催・アーカイブあり)
「本のある場所研究会」主催のイベントです。
店舗、地域を越えて、全国の棚主さんがお互いの取り組みや悩みをシェアし、学び合う場を開きます。
・棚主になったきっかけは?
・仕入れや在庫管理、どうしてる?
・Webでの情報発信のコツは?
・ぶっちゃけ、黒字?赤字?
などなど…棚主さん共通のお悩みや関心について一緒に考える時間にできればと思います。
第1回シェア型書店・棚主会議(Zoom開催・アーカイブあり)
2025年2月8日(土)10:00~12:00
お申し込みはPeatixから
https://peatix.com/event/4270625/view
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