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本屋発注百景vol.13 本屋B&B(後編)

前回は本屋B&Bのスタッフ中西日波さんに話を聞いた。有名独立書店の一日が分かるようなインタビューだった。近刊情報の取得にはブクログを利用していることには驚いたし(これまでの連載でブクログを利用している方ははじめて)、トーハンに30タイトル注文しても実際の入荷は2,3タイトルで不足分は他のシステムを利用したり発売後に連絡することで確保するという話は、書店実務の現状を見たようでハッとさせられた。

前編はこちらから。

さて、後編のテーマはイベントである。本屋B&Bを取り上げるならば毎日開催するイベントについては当然話さねばならない。そう思って中西さんに聞いたところ紹介されたのがイベント担当の舟喜さとみさんだった。

イベント企画は日々の情報収集から

本屋B&Bの特徴のひとつが、毎日開催されるイベント。これまでに開催したイベントは累計4,000以上。

――早速ですがイベントの企画はどうやって出していますか? 店の運営をしたことであらためて毎日イベントを開催することの凄さを思い知ったので、聞いてみたいな、と。

舟喜 棚の担当(フェミニズム、ケア、海外文学、絵本、下北沢の本)もしているので、版元からFAXやメールで近刊の情報をいただきますし、版元ドットコムを見たり、あるいはイベント後の著者や編集者さんとの雑談で教えていただくこともあります。また、自分の担当以外のイベントの日も受付をしたり、配信担当の業務をすることがあり、そうしていると自然と情報が増えていきます。

そうやって得た近刊の情報の中からイベントを企画しています。

イベント関連本コーナー。棚の担当もしていることで、近刊情報にアクセスしやすいことがイベント企画に活きている。


――イベント担当はお一人なんですか?

舟喜 複数人で担当しています。版元からの持ち込みやB&Bが企画を委託している方も担当しています。また、イベントの配信をサポートしてくれるスタッフもいます。

――全体ではどれくらいの人数が働かれているんですか?

舟喜 13人くらいです。

イベント用の書籍は3週間前を目安に発注する

――お店におけるイベントの収益の割合はどんなものなのでしょうか?

舟喜 お店全体に対するイベント収益の比率は40〜50パーセントで変動しています。ちなみに配信参加と会場参加の割合はイベントの性質によって異なりますね。会場が9割のときもありますし、配信が7割のときもあります。専門家の方に登壇いただいた時などは配信参加の方が会場参加の方を上回る傾向があります。
   全体として、配信は全国の方、海外の方もご視聴いただけるので、参加くださるお客さまはとても多いです。基本的に配信アーカイブがついているので、当日参加が難しい方が配信チケットを購入くださることも多いです。

――膨大な数になると思うのですがこれまでに開催したイベントはどれくらいでしょうか?

舟喜 お店全体では累計で4000以上はしているのではないでしょうか。今年で12年目なので膨大な数だと思います。

ミン・ジヒョン×加藤慧×原田里美×舟喜さとみ 「最高で最善の恋愛?! 〜韓国文学と韓国ドラマから〜」 『私の最高の彼氏とその彼女』(イースト・プレス)刊行記念の様子(提供:本屋B&B)

――イベントを開催するまでの段取りはどうしていますでしょうか?

舟喜 イベント開催二か月〜一か月半前に企画立案、もしくは出版社からの持ち込みを検討します。イベントチームで週に一度会議を行っているので、相談・共有しながら企画を進めていきます。
 一ヶ月半前〜一ヶ月前には告知のために出版社の担当者や登壇者とメールやオンライン、B&Bなどで打ち合わせをし、一か月前に告知スタートです。
 三週間前にイベント用の書籍を注文し、一週間前には当日のスケジュールについて、出版社の担当者や登壇者に最終確認を行います。そうしているうちに当日、といった感じですね。

――会議はしますか?

舟喜 週1回でチーム会議をします。といっても時間も限られているのでアイデア出しの場というよりも情報共有の場ですね。基本的にはイベント企画は各自で進めています。

本屋B&Bのイベント進行スケジュール
1ヶ月半~1ヶ月前 登壇者、関係者でイベント内容の打合せ。告知文の作成を進める
1ヶ月前 告知スタート
告知には、X、Facebook、InstagramなどのSNSを活用するほか、内容に合わせてチラシ作成等も行う。予約受付はPeatixを利用
3週間前 イベント用の書籍を注文
1週間前 最終確認をしながら当日を迎える

――イベントで大変なのが話し相手だと思います。例えば興味のある本が出版するのでその著者をお呼びしたいとなったときに聞き手をどうするのか。いつもイベント企画を考えるときに僕はそこで立ち止まることが多いのですが舟喜さんはどうされていますか?

舟喜 SNSや本の内容、他のイベントでの様子を見て、著者の方向性を汲みつつ「この著者はほかのこの人のことが好きそうだな」と想像します。その上で、著者や編集者にお相手の提案をしたり「せっかくだからこの人と話してみたいというのはありますか?」と聞いてみたりなどやり取りしていきます。ときには著者から「実はこの人と話したい」ということもあったり。そうして聞き手を決めていきますね。

新刊はゲラをいただくこともありますが、読む前にイベントを考えることも多いので、企画をかきためずに想像しながら進めていく部分もあります。「この人と絶対に話してほしい!」といった感じではなく、「どんなことを話してみたいですか?」といって提案ベースで話を進めていくんです。イベントに慣れていない著者もいらっしゃるので、そういった場合はこちらでリードしたりなど、柔軟に対応していきますね。

ときには聞き手といった形ではなく、ダブル刊行記念という形を取ることもあります。双方のファンが重なったり相乗効果がありそうな場合ですね。

――「合いそうだな」というのはどういうところを見て判断していますか?

舟喜 本の刊行記念イベントでテーマをもってお話しいただく際、共通言語やトピックがあるとお話がはずむという点で、同じジャンルの読書や映画、音楽などの文化や歴史を見てきた人を想定してご提案することは多いです。友田健太郎さんの 『自称詞〈僕〉の歴史』と、平山亜佐子さんの 『化け込み婦人記者奮闘記: 明治大正昭和』 のW刊行記念をした際はまさにそうでした。

「メインスピーカー+聞き手」のイベントのほか、類書がある場合には、W刊行記念として開催するケースも。同じテーマやジャンルについて書いている著者を組みわせることで話が弾むそう。

また、最近ではSNSでやりとりをされている著者同士も多く、その交流を垣間みることを楽しむ方も多くいらっしゃるので(私もその一人です)ファン目線でこのお二人の対面したところがみてみたい、直接の会話を聞いてみたい、などのところからお相手をご提案することもあります。


集客施策はイベントそれぞれの性質に合わせて実施

――イベントといえば企画も大事ですが集客も重要です。例えば、告知はいつ頃から始めますか?

舟喜 開催一ヶ月前に告知できるように進めています。参加される方にも、ゆっくり検討していただきたいので。間に合わないこともたくさんあります。著者や担当してくださる編集者さんはみなさんご多忙ですし、日程調整に時間がかかることもあります。一日でも長く告知ができるよう、頑張っています。

――宣伝で気をつけていることはありますか?

舟喜 登壇者のファンがどこにいるかを考えるようにしています。XにもいるけどなぜかFacebookのほうが反応が良いことがあったり、Instagramの反応が一番良いというときもあります。イベントの性質によって変わるのでひとつひとつ考えて手を打っています。

例えば、2023年9月に開催した「シモキタナイトVol.1」※は下北沢がテーマのイベントだったので近隣のお店にもチラシを置いていただきました。

※本屋B&B10周年を記念して開催されたイベント。ライターの宮崎智之、小説家の吉本ばなな、芸人のピストジャムを招いて下北沢について語った。 https://bookandbeer.com/event/bb230923a_simokitanight/

宮崎智之×吉本ばなな×ピストジャム 「シモキタナイト Vol.1」で作成したチラシ(提供:本屋B&B)

登壇者にとっては毎日のイベントではないことを忘れない

――他に気をつけていることはありますか?

舟喜 人前で話すことに慣れていらっしゃらない方、勇気を出して登壇を決めてくださる方もたくさんいらっしゃるので、イベントのときになるべく安心して臨んでもらえるような空気を作る努力をしています。

B&Bは毎日イベントをする、という特殊な形態。毎日のことが日常化すると流れ作業になっていきがちですが、著者や出版社、本にとっては日常ではありません。一回一回、一人ひとりを大事にしたいと肝に銘じています。

――印象的だったイベントを教えて下さい。

舟喜 医学書院の編集者・白石正明さんが退職されるタイミングで開催したイベント「白石さん、シリーズ ケアをひらくをありがとう」※ですね。医学書院の「シリーズ ケアをひらく」の著者を招いて1ヶ月のうちに3回開催したのですが、このシリーズが読者や著者、出版関係者からどれだけ愛されているか、本当にたくさんの方が集まってくださいました。その日だから集まることができた人が一緒に空気を作っていく、というイベントならではの醍醐味も感じました。それだけあたたかい空気に満ちていました。

横道誠×白石正明 「白石さん、シリーズ ケアをひらくをありがとう」より(提供:本屋B&B)

※2024年2月に開催。登壇者は白石正明のほか、伊藤亜紗、三好愛、頭木弘樹、岡田美智男、横道誠。 
https://co-coco.jp/news/bookbb_shiraishisan/

BookCellarでこの本発注しました

――棚も担当されているということですがBookCellarは使われていますか?

舟喜 BookCellarはトランスビュー取引代行の本を補充するときに使っていますが、あまり使いこなせていないですね。新刊予約はちゃんと入荷されるのか怖くて使えていません。以前、頼んだ本が直販になってしまっていたときもあって困りました。

――それはすみません。おそらくトーハンとは取引しているけれどBookCellarとは契約していない出版社の本ですね。新刊予約についてはFAXと仕組みは同じなので安心して使ってみてください(「本屋発注百景vol.2 今野書店」を参照ください)。

――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本を挙げていただけませんでしょうか?

舟喜 現在・フェミニズム専門書店・エトセトラブックス BOOKSHOP店長の寺島さやかさんがB&Bで働かれていたということもあり、エトセトラブックスの本は雑誌の『エトセトラ』も書籍も売れますね。

フェミニズムを身近なテーマから考えるマガジン『エトセトラ VOL.11』(エトセトラブックス)

あとは百万年書房の『転職ばっかりうまくなる』やブルーシープの『COJI COJI FAN BOOK コジコジのすべて』、生きのびるブックスの『家族と厄災』も動きます。

――『COJI COJI FAN BOOK コジコジのすべて』は中西さんもおっしゃっていましたね。それだけ人気の本ということでしょうか。最後に、お知らせしたいイベントなどありましたらお知らせください。

イベント情報

イベント名:石田月美×斎藤環×吉川浩満「『まだ、うまく眠れない』日々を抱えて我々はどう生きるか」『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)刊行記念
日時:2024/8/10(土)19:00~21:00
会場:本屋B&B ※配信あり

内容:この度、『まだ、うまく眠れない』で圧倒的な文才を鮮やかに披露した石田月美さん。彼女の文章の魅力は何なのか――。精神科医の斎藤環さんと、文筆家・編集者・そして門前の哲学を営む吉川浩満さんが、その謎を解き明かします。
モテ、性被害、団地、グルーミング、社会運動、うつ、摂食障害、結婚妊娠出産、夫婦とお金、育児、友だち、仕事……。女性として生きる痛みを描き切った本作。そこから我々はどう生きていくべきなのか。お三方が今こそ、語り合います。
石田月美さんのことを知らない方も、本作をお読みでない方も、ぜひご参加ください。新しい文学誕生の瞬間に、お立ち合いあれ!

参加方法:ご予約は以下URLより。

本屋B&Bで仕入れた本・売れた本 

・エトセトラブックスの本
・『転職ばっかりうまくなる』(百万年書房)
・『COJI COJI FAN BOOK コジコジのすべて』(ブルーシープ)
・『家族と厄災』(生きのびるブックス)

BookCellarをご利用いただくと、本屋B&B・舟喜さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら


「本を楽しく買える」をテーマに今日も本屋B&Bではイベントが行われている

「本屋発注百景」とは

本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。様々なお店の「発注」にクローズアップして取材する月イチ連載企画です。
過去の連載もどうぞチェックしてみてください。

https://note.com/bookcellar/m/m8ef6b6ddeb0b

取材日:2024年5月25日
取材・文・写真 和氣正幸