見出し画像

【本137】『神様のカルテ』

著者:夏川草介 出版社:小学館文庫

夏川草介さんの小説が大好きで、今までたくさん読んできました。『本を守ろうとする猫の話』『始まりの木』『スピノザの診察室』『臨床の砦』...どれもこれも、温かく、心にすっと入り込んでくる小説ばかりです。

スピノザの「暗闇で凍える隣人に外套をかけてあげること」、猫の「心を持った本は、その持ち主に危機が訪れたとき必ず駆けつけて力になる」など、一生大切にしたい、人生のお守りのようなメッセージもたくさんあります。

今回の『神様のカルテ』もそんな大切にしたいメッセージがたくさんありました。主人公の医師の名前は「一止」。二つの漢字を重ねると「正」。

「人は生きていると、前へ前へという気持ちばかり急いて、どんどん大切なものを置き去りにしていくものでしょう。本当に正しいことというのは、一番初めの場所にあるのかもしれませんね」

一止が勤める病院は、24時間365日対応の激務が続く病院。そんな中にあり、何が大切なのか、患者を通して考えていくのです。忙しいからこそ、置き去りにしてはいけない心。心が通い患者の孤独を支える医療。一止は、これからも多くの患者の死と向き合いながら、考え続けることでしょう。

深い優しさに満ちた温かな小説です。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集