見出し画像

山の上の文章教室⑦

2024年の6月から二ヶ月に1回のペースで開催されている「山の上の文章教室」も残るところあと2回。

今回は「山の上の家」ではなく、吉祥寺にある夏葉社の事務所で行われた。いつものように総勢8人が集まる形式ではなく、島田さんとマンツーマンで、教室の記念に作る文集に載せる文章について話す。

予定時刻の18時より少し早い17時に吉祥寺に到着。時間があったので、ジュンク堂に冷やかしに行こうと思い、信号待ちで何気なくスマホを見たら、島田さんからメッセージが入っていた。

「今日、何時にいらっしゃいますか?」

18時からなはずだが、この内容が送られてくるということは、島田さんは17時と認識している。言われてみると、前回の教室のさいに打ち合わせ時刻を「18時!」ときったない走り書きでノートの片隅に残しただけなので、あっているかどうか自信がなかった。

とりいそぎ時間を勘違いしていた旨を返信して、ダッシュで夏葉社の事務所に向かう。寒空のした時間を勘違いして、吉祥寺の街を駆け抜ける中年男性は滑稽だった。

息を切らしながら夏葉社があるマンションに到着。インターホンを鳴らすも反応がない。どうやら壊れているらしい。いきなり扉をあけるのに抵抗はあるが致し方ない。少しの勇気と力をいれて扉を開けると、部屋の奥のほうにいるMacのディスプレイ越しの島田さんと目が合う。

私は急いでニット帽とマスクを外し頭を下げ

「すいません!18時からと勘違いしてました!」
「いえいえ、こちらが勘違いしていたのかもしれません。すいませんでした。」

大人の対応だ・・・
夏葉社の事務所に行けると浮かれポンチで、走り書きのメモを残しただけのやつが、十中八九間違っているはずなのに、島田さんは自分に非があるような感じでフォローしてくれた。

そこから来客用のソファーに腰を下ろし、向かい合って座る。5分ほど近況報告をかねた雑談をしたのち、本題に入る。

事前に提出した文章について、15分ほどアドバイスをもらった内容をところどころ赤ペンでメモに残す。

文集に載せる内容は色々と悩んだ末、「物語」にした。前回の教室で初めて「物語」を書いてみたところ、思いのほか楽しかったからだ。

それなりに小説を読んできたので、感覚的に書けるかもしれないという淡い期待があったが、「読む」と「書く」はまったく別物ということを痛感した。特に感じたのは、地の文を書く難しさだ。私の書く「物語」は、セリフの比重が多く、どこか稚拙な印象が拭えない。

ここ最近、一穂ミチさんの『光のとこにいてね』を読んでいて「なんでこんな登場人物の心の機微を繊細かつアーティスティックに表現できるんだ・・・」と感嘆半分、嫉妬半分の感情が入り乱れる。

文章について、ひと通り触れたあとは再び世間話に戻る。島田さんと親交のある作家・津村記久子さんのJリーグを題材にした作品『ディス・イズ・ザ・デイ』を薦めてもらったり、スペインのサッカーチーム「FCバルセロナ」の期待の新星、ヤマルがボールを持つと時間が止まるようだ、などと共通の趣味の話題で花を咲かせた。

約1時間ほど滞在したのち、夏葉社を後にする。
帰りの中央線は、土曜日の夜ということもあり、新宿方面に向かう乗客で混雑していた。荻窪駅で運がいいことに目の前の席が空いたので座り、夏葉社での時間を頭のなかで反芻しながら物思いに耽る。

ほんの一年前までは、夏葉社のいちファンに過ぎなかった自分が、まさか島田さんとサシで話すようになるなんて想像もつかなかった。あくまで教室の先生と生徒の関係にすぎないが、そのことがすごく嬉しかった。

続く

いいなと思ったら応援しよう!