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山の上の文章教室③
↑の続き
「山の上の文章教室」は、今は亡き小説家の庄野潤三さんが住んでいた川崎市生田の自宅で開かれる。
なぜ、庄野さんの家で開かれているかというと、主催の島田さんが庄野さんの大ファンであり、以前庄野さんの作品を夏葉社から復刊したさい、ご家族との繋がりができたことがきっかけになる。
ちなみに「山の上の文章教室」は本当に山の上にある。
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昭和にタイムスリップしたかのような味のある佇まいで、どこか懐かしさを感じる。到着した瞬間、小さい頃に毎年帰省していた母方の沖縄の実家を思い出した。
ちなみに庄野潤三さんの代表作である『夕べの雲』には、家によくムカデが出てきたエピソードがあったが、時期の問題なのか対面せずにすんだ。
「山の上の文章教室」は、どのように行われているのか?
2ヶ月に1回集まり、事前に出された作文課題にたいして島田さんと他の受講者から感想を伝えあう形式で行われる。
参加者は、受講生8人・島田さん・庄野潤三さんの長男龍也さん・長女の夏子さんの計11人と大所帯であった。
まずは初回ということもあり、島田さんから簡単な挨拶。
「この教室の目的は文章の技術を向上するというよりは、自分にしか書けない文章を見つけることがゴールになります」
島田さんはこの文章教室を、その人にしか出せない味に気付く「きっかけ」を与える場にしたいのだろう。
日ごろから文章を書く身として「自分らしい文章とは?」と自問自答をすることは多い。はたして、それが見つかるのか?
その後は、受講生の自己紹介。
職業・年齢・居住地どれもバラバラなので、この教室に通わない限りは確実に交わることがない人たちだろう。友達でもなければ会社の同僚でもなく、まだその関係性に名前をつけるのは難しい。
自己紹介が終わり、ここから講義が始まる。事前に提出した各自の作文がプリントアウトされた紙が配られ、島田さんと龍也さんが交互に音読する。
私の順番は3番目で島田さんが読みはじめてくれた。やはり自分の文章を読み上げられるのは、こっぱずかしいものである。心のなかで「早く読み終わってくれ、早く読み終わってくれ」とずっと唱えていた。
読み終わり島田さんとほかの受講者の方からフィードバックをもらう。そのなかで、島田さんから言われて印象的だったのが
「デッサンでキャンパスに描くようなイメージで、文章を書くといいですよ」
今まで文章を書くさい、デッサンを描くようになんて、当然のことながら意識してこなかった。たしかに自分の中にある情報や考えを整理して書き起こす作業は、対象物をキャンパスに落とし込むデッサンと似ている気がする。
イメージは沸いたが、実際のところピンとはきていない・・・なぜなら、私自身34年間生きてきて、デッサンとはなんら関わりもない生活をしてきたからだ。いつの日か「あー!こういうことか!」と分かる日がはたして来るのだろうか。
8人分のフィードバックを終えたところで、ちょうど終了時刻を迎えていた。まだ、初回ということもあり空気は少し固かったが、冷房では感じられない心地よい風と、燦然と輝く庭の木々を愛でながら、言葉の海に潜る時間は、なんとも贅沢な時間であった。
1回目の講義を終え、文章も性格のように個性があるということに気付く。「表現が巧」「味のある」「クセが強い」「朴訥している」どれもその人の文章の個性なのだ。
私は正直、自分の文章に自信がない。だからといって、そのことに嘆くこともないんだ。
それも個性と捉えればいい。
続く