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オフ会【ゆうえん怪談・語り】

みなさん、今日の会はいかがでしたか?
「こういった怪談を話したり、考察したりする会に初めて参加した!」って方も結構いらっしゃるかと思います。
私は昔から怪談や怖い話が好きで、こんな感じの怪談話の交流会に参加していたんですよ。
そこで同じ怪談好きの参加者と怖い話を話したり、聞いたり。
今からお話するのはそんな会で知り合った人の体験した話です。
その人は仮に小林さんとしておきましょう。
小林さんは都内のITメーカーに勤務している30代の女性です。
小林さんと私が出会ったのは、とある怪談好きの集まるオフ会でした。
この怪談会は2~3ヶ月に1回の割合で定期的に開催をしていました。
居酒屋とか個室のあるお店に、5~6人くらい集まって、ひとりひとり怪談をした後に、雑談しながら食事をしたりお酒をのんだりする、いわゆる怖い話のオフ会ですね。
小林さんはこの会の常連さんでした。
実は小林さん、趣味で怪談ブログを書いているってくらい、オカルトや怖い話が大好き。
ネタも豊富でそのうえ、めちゃくちゃ怪談が上手いんですよ。
交流会なので雑談がメインになる時もあります。
でもそんな時でも、小林さんが怪談を話し始めると、私を含め参加者は不思議と引き込まれてしまいました。
いわゆる話術が巧みなんですよね。
その日も、怪談会に参加すると小林さんはいらっしゃいました。
ひとしきりみんなで怖い話をした後、歓談しながら思い思いにお酒を飲んでいる時。
小林さんと同じテーブルになった私は思い切って聞いてみたんです。
「怪談って、話す時に何かコツってあるんでしょうか?」
今考えるとかなり不躾な質問ですね。
でも小林さんは快く教えてくれました。
「怪談を話す時のコツはまず、シチュエーションの説明は具体的にするんですよ」
「シチュエーションですか?」
「はい。『数年前にとある場所であったことなんだけど』というよりも、『去年の夏に、この白いハコであった話なんだけど』と言われたほうが、リアルで怖くないですか?特に身近な場所ならなおさら。」
なるほどなぁ、と思っていると小林さんは2つ目のコツも教えてくれます。
「あとは、怖い話を話しやすい雰囲気を作って、聞き手の集中力を自分に向けるんです」
「聞き手の集中力、ですか?」
「例えば、最初の段階で『こういう話をしてると霊が寄って来るっていうよね』と言うと、不気味な雰囲気になって、怖い話に興味を持ちやすくなる。いわゆるつかみを最初に行うんです」
これを聞いて私はふと気になりました。
この怖い話に興味を持たせるって部です。
「あの~、今のコツなんですが、小林さんは怪談の冒頭で必ず「この話は作り話なんですけどね」と言いますよね?雰囲気を作るのが大切なら、作り話とわざわざ宣言するのは真逆じゃありません?」
そう言うと小林さんは一瞬だけ真顔になり、小さく微笑みました。
「確かにそうですよね。でも作り話って言わないと……私が怖いんですよ」
「どういう意味ですか?」
「緋乃さんには話しても良いかな…これは作り話なんですが」
そう言うと小林さんは語ってくれました。

ちょうど2年前、小林さんは会社の同僚2人と都内のカフェバーで飲んでいたそうです。
路面に面した、ガラス張りのオシャレなカフェバーで、道行く人を眺めながらお酒を飲み始める3人。
その日は、会社の大きな会議も終わって、夏季休暇も直前。
開放的な気分になったのか、結構なペースで呑んでいて、みんなかなり酔っていました。
その勢いもあったのか、小林さんの怪談好きを知っている同僚は小林さんに怖い話をして欲しい、と強請ったそうです。
同じく酔っていた小林さんは二つ返事でOK。
しかもせっかく話すなら怖い話を盛りに盛ってしまえ!!!とネット怪談で有名な八尺様をベースにした怖い話を聞かせる事にしました。
八尺様って知ってますか?
その名の通り身長が8尺(約240cm)あって「ぽぽぽ」という声を発して魅入った子供や若い男をどこかに連れ去ってしまうと言われるネット怪談の有名な怪異です。
黒い長い髪で青白い顔の身長がすごく高い、サングラスをかけた黒いワンピースの女。
その女の正体は怪異で、同僚の1人に似た男を襲う、と言う話を即興で作る小林さん。
女がサングラスを取ると、目玉が無く空洞だった……みたいなオチで終わらせます。
まあ、聞かせる相手は酔っ払いですし、小林さん自身も酔っています。
なので、小林さんはユーモアたっぷりに話してましたし、同僚たちも笑いながら聞いていたんですよね。
「なんだよ、その男って俺にそっくりじゃないか!」とか「おい、お前が襲われたぞ」みたいなノリで。
すると
ドンドンドン!
急にガラスを強く叩く音が店内に響きました。
びっくりして小林さんが音の方に目を向けます。
3人が座っている席から見える、路面に面したガラスの向こう。
そこに1人の女性が立っていました。
その女性は黒い長い髪で青白い顔の身長が凄く高いサングラスをかけた黒いワンピースの女。
今小林さんが話した怪談の女性にそっくりなんです。
女性はガラスを叩きながら、何か叫んでいますが聞こえません。
「え? なに?!」
小林さん達がびっくりしていると、その女性は店内に入ってきました。
そして小林さん達の席に真っすぐに駆け寄ってくると
「なんで私の話をするんですか!」
女性はつかみかからんばかりの勢いで小林さんを問い詰めはじめたんです。
「今話した女って私ですよね!」
「いえ違います!単なる作り話です、勘違いをさせてしまったのでしたらすみません」
女性の迫力に思わず謝る小林さん。
「嘘だ! 私の話よ!だ って、私の事をよく知ってるじゃない! 黒い長い髪で青白い顔の身長が凄く高い、サングラスをかけた黒いワンピースの女って、私じゃないですか!」
叫んでいる女性に店内の視線も集まり、店員さんもちらちらとこちらを見ています。
「何も知りませんって! さっきの話は本当に私が考えた話なんです!」
「じゃあ、なぜ…」
「不快にさせてすみませんでした! すぐに出ますので!」
同僚は女性の言葉を遮ると、小林さんともう一人の同僚を連れて慌てて店を後にしました。
逃げるようにお店から遠ざかる3人。
しばらく歩いて、24時間営業のコーヒーショップに入りました。
小林さんは落ち込みながらも2人に謝罪します。
「本当にごめん。私が変な話をしちゃったばかりに……まさか似た外見の人がいるなんて思わなくて…」
しかし同僚は首を振りました。
「いや…、そうじゃなくてさ。ありえないんだよ」
「ありえない?」
「あの女は外にいただろ? 俺達の話が聞こえるはずないんだよ……だって俺達だってあの女の声が聞こえなかったろ」
そうなんです。お店は大通りに面しているので、ガラスは防音ガラス。
こちらは外の音も聞けませんし、外も中の音は聞こえるはずもないのです。
「あの女はどうして話の内容を知ってるんだ? そう気づいたら、怖くなって……だから慌てて、あの場を離れたんだ」
「それに怖かったんだ…もし、あのサングラスを外して、その目が小林のいう通り…空洞だったら…って」
3人はガタガタ震え、その日はこのコーヒーショップで3人は夜を明かしたそうです。

「だから怖い話をする時は最初に作り話だって言うようになったんです。じゃないとまた誰かが現れて、自分の話だ! って問い詰められるかもしれないじゃないですか……」
そう言うと小林さんは静かに窓の外を指差しました。
窓ガラスの向こう。そこには――。
「ほら、あんなふうに現れて……」

※ゆうえん怪談にてお話させて頂いた怪談を書き下ろしました。

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