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意味が分かると怖い話
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
音楽を聴きながら、風呂場で掃除をしていた森田直人はすぐに扉を開くことは出来なかった。
「ピンポーン」
二度目のチャイムが鳴った。
「宅急便でーす。」
こんな時間に宅急便が来るのか。夜の九時なのに。昨日頼んだクーラーボックスかな。森田は手足の汚れを落とし、玄関へ向かった。
玄関を開けると、そこには比較的筋肉質な配達員が段ボールを持って立っていた。
「お疲れ様です。こんな遅くにわざわざありがとうございます。」
配達員から段ボールを受け取ろうと手を差し伸べた。その時、ジジッという音とともに配達員の右手が光り、いや、配達員の握っていた何かが光り、大腿部に激しい痛みが走った。
あまりの痛みに膝から崩れ落ちた。なんだこれは。スタンガンか。何が起きたのか理解しようとしても、痛みと驚きで思考が完全にストップしてしまった。
「大声は出すなよ。俺も手荒な真似はしたくないからな。」
そう言いながら、配達員の男は腰にぶら下げていたロープで森田を縛った。抵抗できずに縛られてる中、森田は男の左頬に大きな傷があることに気が付いた。
森田はロープで縛られたまま、ベッドまで運ばれた。縛られた腕はびくともしない。森田はベッドの上で何も出来ずに、強盗の動きを観察していた。男の筋肉は強盗をするためだけに鍛えられた筋肉の付き方をしていた。
「満足したら早く出て行ってくれ。警察に届け出たりはしない。」
「強盗なんかに遭遇してかわいそうやな。兄ちゃん。金目のものはどこにあるんだい。」
「確かに金はある程度持ってはいるけれど現金はあいにく持ち合わせていないんだ。」
「いや、嘘だな。この家からは金の匂いがする。そして兄ちゃんみたいなタイプは現金を手元に置いているタイプだ。猫なんか飼っちゃって。」
部屋の角に置いてある猫のトイレの砂を見たのだろう。半分正解で半分間違っている。
男は、専門書の並ぶ本棚の引き出しを開け、テレビ台の下を確認し、今はクローゼットの中を調べていた。このまま部屋中を探されるのであれば、自ら金庫の位置を教えようと思った。
その時、クローゼットを調べている男の手が止まった。中にある金庫を見つけたようだった。
「やっぱりあるじゃねーか。」
強盗は上機嫌で、鼻歌を歌いながらランドセルほどのサイズの金庫を取り出した。
「昨日の強盗のニュース見たか。」
「昨日の強盗も君がやったのか。」
「あぁ、そうだとも。」
「犯人の右手には傷があるとのことだったけど、君の手にはそんな傷は見当たらないが。」
実際、男の右手は強盗とは思えないほど奇麗な手をしていた。
「兄ちゃんは気に入ったから教えてやるが、あれは特殊メイクってやつよ。人間、何か特徴を印象付けておくとそれを必死に覚えて他のことを覚えられなくなるらしい。今回は気合入れて左頬に傷をつけてみた。どーよ。」
「そんなこと私に話して大丈夫なのか。」
「どうせ捕まんねーよ。それに兄ちゃんは本当に警察に言わないタイプの人な気がするからな。じゃーな。」
変なところで勘が鋭い。強盗はのんきに家を出ていった。危なかった。最悪な事態は免れた。あとはあの強盗が捕まらないことを願うだけだ。
早く風呂場の掃除をしなくては。