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競争と協調を使い分ける
「競争から共創へ」というフレーズをメディアの仕事を通して見聞きする機会が本当に増えてきましたが、一方で実際のビジネスの現場では「競争」を意識せざるを得ない方がまだまだ多い、という実感があります。
そんな中、「競争」と「協調」にはどんな関係があり、どう考えて実践するのが良いのか、という疑問に対して、この本では様々な視点を提供されていました。
社会心理学を専門とするコロンビアビジネススクールのアダム・ガリンスキー教授らによると、
「相手の意見に折れて協調すべきか?」 or 「自分の主張を通して戦うべきか?」
という問いの設定は適切ではなく、両方を使い分ける力こそが、個人と組織の成果を最大化するために大切だといいます。
なぜなら、協調性のみを重視してしまうと人が本来持つ競争心を無視することになり、競争心のみを重視すると協調性がもたらす社会的利益を無視することになってしまうからです。
そして、「競争」と「協調」をどう使い分ければよいのかを「人との比較」「権力」「序列」「男女平等」など多様なテーマを元に解説されていましたが、特に参考になった「信頼」と「取引」に関するテーマを紹介したいと思います。
1) 信頼
人は信頼度が低い関係では些細なことで摩擦が起き、だまされないように神経を尖らせ、競争的になる傾向があります。そして、誰かを信頼できるかを判断する際、
①能力 = 確実で頼りになる
②温かさ = 自分のことを気にかけてくれている
という異なる2つの特性が大きいそうです。
誰かから信頼を得たい時に「能力の高さ」をアピールすることは多いと思いますが、そこには「自分は優れている」という競争が前提にあります。一方で、相手に気遣いの言葉をかけるなどの言動で「温かさ」を示す協調の視点も信頼を得るためには欠かせないと著者はいいます。
信頼における「温かさ」の重要性を確かめる面白い実験が紹介されており、それは大学の研究助手が雨の日に、駅で携帯を持った人に近づいて「携帯を貸してくれませんか?」とお願いしたら何人が貸してくれるか、というものです。
見知らぬ人からのお願いに相手は当然戸惑い、携帯を貸してくれる人は全体の9%でしたが、声がけの際に「雨のなか、すいません(I'm sorry for the rain)」という一言を冒頭に加えると、貸してくれる人が5倍以上の47%まで増加したそうです。
本来、気にかけるべきことは「雨のなか」ではなく「知らない人に携帯を借りようとしていること」のはずですが、それでもたった一言で結果にこれほど差が出るというのは興味深く、信頼を得たい時に「能力」「温かさ」のどちらを今示すべきか、という視点は私にとって新鮮でした。
2) 取引
さまざまなテーマの中でもこの「取引」は競争と協調の使い分けが最も難しく、訓練が求められる領域だと思います。
著者は「相手の視点で見ること」の重要性と注意点を解説され、相手に「なぜ?」と問いかけて意図を探ることはもちろん大事ですが、共感し過ぎると相手の意向に引きづられて言いなりになってしまうリスクがある、と指摘されていました。
そこで、取引において競争と協調を使い分けるための下記のポイントを紹介されています。
▶︎取引で押さえるべきポイント
・なぜ相手は取引しようと思ったのか
・相手がどれだけ自分の提案に価値を感じているか
・相手は自分より多くの情報を持っているか
・両者の利害が一致する条件はあるか
・自分が譲歩できる余白を事前に考慮したか
・複数の提案を相手に選ばせるように準備したか
・最後の締めくくりに細心の注意を払っているか
特に取引の最後の合意でつい気が緩み、過剰な喜びを表現してしまうと、相手に損をしたと感じさせ、築いた信頼関係を台無しにしてしまうことがあります。
そして、競争と協調の使い分けが重要である最も大きな理由は、物事をどう終わらせ、相手にどんな印象を残すかが次のステージの土台になるからだといいます。
ビジネスにおいて先が読めない状況下で次々と高度なコミュニケーションに迫られる場合、競争と協調の使い分けを誤ると、個人だけでなく組織全体にとって致命的なミスにつながる恐れもあります。
そうしたリスクを避けて目標を達成するためには、競争と協調のあいだを自在に行き来する力を身につけ、いざという時に使いこなせるように準備することが求められていると言えそうですね。