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創作大賞感想【北風のリュート/deko】

「空を見上げている」

 視線をスマホやPCに向けていながらいつも空を見上げる自分を思い描いている。そんな物語だった。

 見知らぬ土地の見知らぬ空の小さな異変を皮切りに、まるで夏空の入道雲のように、町から県、県から国、国から世界へと恐怖と問題が巨大化していく。

 問題を解決するのは主に、身なりに無頓着で天才肌の気象研究官・流斗、実直な好青年の戦闘機パイロット・迅、そして特別な力を持った内気な女子高生・レイ。
 脇を固める登場人物達も十分に魅力的。陸自のお偉方や市長や国の官僚など「人間」がそこにいるし、問題を解決する過程の説得力と読み応えが半端ない。

 これはひとえに、著者が卓越した探求心と想像力の持ち主だからだと、私は想像する。

 物語を読んだ人の中には「神は細部に宿る」という建築家の言葉や、あるいは有名SF作家の名作を想起した人も多いだろう。

 もしAという問題が起きてしまったら?
 そのAという問題を解決するのにBという問題が起き、それをなんとかしている間にCという問題が起きて………。

 著者は登場人物達を通して、それを一つ一つ丁寧に塗りつぶしていく。

 科学者、政治家、医療関係者、自衛隊、そして市民。それぞれが追い込まれ、逼迫した表情が目に浮かぶ。

 圧倒的なディティールがあるからこそ「空」が当たり前のようにあると感じさせてくれ、その空模様に一喜一憂させられてしまう。

「彼らがどうか無事でありますように」と願いにも似た感情で読み進めていく。そして空に浮かぶ「あるもの」を登場人物達と一緒に眺められる幸福感を噛みしめる。

 龍神(本文中には龍神という表記はありません)の伝説が物語の柱となっているのだが、この龍神の伝説こそが「SF」と「ファンタジー」という二大ジャンルを象徴しているように感じたのは私だけではないだろう。

 ちなみに、数多くある名場面の中で個人的に好きだったのは、レイにしか見えない「空を泳ぐ魚」を、認知症の曾祖母が同じように見えていると判明するシーン。