創作大賞感想【ラプソディ・イン・ブルー/いぬいゆうた】
「カメラを止めるな」
作中にこんなセリフは出てこない。出てこないのに、読み終えた後、無性にそんなセリフが云いたくなってしまった。
もちろん作中のセリフも然り。十秒のことを「とうびょう」と言いたくなったし「掛け合いチェックお願いします」や「CMいって」など一人報道番組(作中の架空の番組『なまら早起きワイド』通称『なまはや』)ごっこをしたくなってしまうのである。
なぜなら本作がニュース番組の舞台裏を臨場感たっぷりに魅せてくれるカッコイイお仕事小説だからだ。
専門用語が飛び交うテレビ局のフロア、あるいは中継現場での光景をありありと目に浮かべる事が出来る。
しかも堅苦しさはなく、完全にエンタメ路線でとっつきやすい。
海岸に大量のイワシが打ち上げられているというニュースが入ってくれば、中継する為の段取りをし、生放送内でのアクシデントが重なった時には、局と現場の秒刻みでの連携をする。
そのどれもがいちいちカッコイイのだ。
読み進めていくごとに、予想外の状況が勃発し、イワシのニュースが国家レベルのニュースにまでどんどん大きくなっていく緊張感。
対照的に、くすぶっているお笑い芸人のはちゃめちゃな行動や、新米とベテランのほろりとさせる人間模様。
ラストでは手に汗握ったあとの格別な清涼感が味わえる。
ただ、私にはわからない事が一つ。
この物語の題名がどうして『ラプソディ・イン・ブルー』になったのだろうかという事。
『ラプソディ・イン・ブルー』とは、ガーシュウィン作曲、グローフェ編曲のピアノ独奏と管弦楽のための音楽作品の題名でもある。ネット情報に頼ってしまったが、実際にその楽曲を聴いてみたところ、映画のサントラやフィギュアスケートで使用されているのを耳にしたことがあった。
楽曲のイメージだろうか。
楽曲を弾くピアニストとオーケストラの関係が、作中の報道局の様子と重なって見えるがそういうことだろうか。
それぞれのプロフェッショナルが自らの役割を果たして番組を成り立たせていく姿。あるいは人間ドラマが織りなす重奏。
演奏が終わった後の余韻を残し、物語も幕を閉じる。
ぜひ読んで理由がわかった方がいらしたらこっそり教えて欲しい。