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創作大賞感想【グラニュレーション/さくらゆき】

まるでギャラリーの濃厚で贅沢な静けさに身をゆだねている感覚。

あの独特の空気感が漂う作品だと思った。

水彩画家の荷堂愛佳かどうまなかとギャラリーのスタッフ・真中龍史まなかたつふみ。どちらも「まなか」という共通点。運命のいたずら。

穏やかな筆致で紡がれるピュアなラブストーリーなのだが、読んでいて呼吸がうまく出来なくなるほど切ない描写もある。二人の抱える深刻な心の傷、闇、あるいはトラウマと言ってもいいだろう。それが大きな呪縛、壁となってしまうのだ。

その心の闇を象徴するものとして、
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤの「黒い絵」という連作の中の一点、『我が子を食らうサトゥルヌス』が物語に終始横たわっている。

目にしたことがある方はわかるだろうが、それ自体が十分トラウマとなりえるほどのインパクトがあるおどろおどろしい絵だ。

また、タイトル「グラニュレーション」とは「分離色」を表し、「性別のグラデーション」に対する主人公・愛佳の考え方を象徴している。

この分離色が極めて良い色を出していて、
「ハシビロコウ」と「ススキ」という色が効果的に使われている。主人公が思いを込めて描いた絵にその味わい深い色合いで色付けされていると想像するだけで心に木漏れ日が射すようだ。

画材フェスの様子、魅力的な文具の数々の描写、そこでの互いを思いやるエピソードも秀逸。

読みながら知らず知らずのうちに、時には苦しく、時にはやきもきしながら二人を見守っている自分がいる。愛佳の愛犬(黒柴の柴三郎)やギャラリーのオーナーの存在に癒されながら読み進めていく。

二人の「まなか」が抱える問題が明らかになった時、近道をせず、やや遠回りをしたからこそ、二人に訪れるべくして訪れた結末が待っている。

ラストに訪れる景色には、温かく滲んだ分離色の色合いが使われているはずと感じるのは私だけではないだろう。


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