心の故郷、スコットランド
お茶はいかが?
日々乃 夢です。
今回は、JTBとnoteによる投稿企画「#忘れられない旅」に参加します。
スコットランドでの思い出についてです。
スコットランドへ学部留学
「静かで、穏やかで、景色は美しく、人々は優しい」
留学の情報収集のため、過去に留学を経験した人たちが書いた留学体験記を読んでいたところ、この文章が目に留まりました。
メモをした訳ではないので記述通りではありませんが、このような内容でした。
この文章を見て、「ここだ!」と思ったのです。
それが、スコットランドでした。
私には留学に関する希望がいくつかありました。
高校時代、短期留学でオーストラリアにホームステイした際に暑さと乾燥が厳しく、私の身体に暑い国は合わないことを実感しました。気候が合わない所に滞在することは負担が大きく、長続きしないと感じたのです。
一方で、人々は優しく、ホームステイ先も大変良いお家で、学ぶことばかりだったので、現地の人達の生活に入ることが出来るホームステイは自分に合っていると感じました。
そこで、次回は寒い国でホームステイをしたいと思いました。
また、私は騒がしい場所や人の多いところは出来るだけ避けたいと思っていました。大学で学ぶことに集中するためには、静かで穏やかな環境が私に合っていると思ったのです。
場所もよく知らず、学内で留学体験者を探そうとしても見つからないスコットランドでしたが、小さな町で小さな学校という自分にぴったりの場所はここしかないと感じました。
他の選択肢として、イギリスやアメリカ、カナダやオーストラリア、イタリアやフランスなど様々な国があったので、とても迷ったことを覚えています。しかし、様々な学生の留学体験記を読み進めるうちに段々と候補が絞られてきたのです。
例えば、私は2つのことが大事だと気が付きました。
趣味がぴったりのホストマザーとかわいい子供との出会い
留学するに当たり、語学試験の結果や大学での成績表などを提出した後に、学内面接を経てようやく留学が決まりました。
念願の学部留学です。
現地の講義を受け、試験も受けた上で成績評価をしてもらうという新しい挑戦です。
気になっていた通学については、バスで5分ほど、徒歩なら道なりに沿ってまっすぐ歩くだけという非常に便利な大学で、嬉しかったです。
そして、ホームステイ先も決まりました。
スコットランドでホームステイ先となったのは、私と同じミュージカル好きの家庭でした。5歳の子供さんがいる家庭で、妹や弟のいない私にとって初めて子供と暮らす生活でした。
子供さんは本当に良い子で、お気に入りのYouTube動画を見せてくれたり、「かっこいい強い技」を教授してくれたりと、積極的に親睦を深めようとしてくれました。
プロレスごっこを仕掛けられた時は大変驚きましたが、驚いた私にむしろ驚いた顔が忘れられません。
ホストマザーに毎秒のように「Why?」「How?」と聞き続ける姿も印象的でした。慣れない大学に通う私にとって、「なぜ?」「どうして?」と聞く姿勢は子供さんから学びました。
ホストファミリーとは、一緒にテレビでミュージカルを見たり、好きなミュージカル俳優について話し合ったりと、夢のような生活でした。
ホストマザーがエディンバラ(スコットランドの首都)のミュージカル公演に連れて行ってくれることになった時は、本当に嬉しかったです。
公演の前に、ミュージカルナンバーが流れるレストランで軽食を取り、作品を鑑賞し、帰りの車の中でホストマザーと「日本とスコットランドの演劇について」語り合いました。
子供さんは疲れてすぐに眠ってしまったのですが、私もこうして母の運転でウトウト寝ていたことを思い出しました。
日本でも、何かの公演に行く際は外食をしてから作品を鑑賞し、帰りの電車や車の中で家族と作品について語り合う、ということが当たり前だったので、不思議な感覚でした。
「日本から何時間もかけて飛行機で行った先に、私と同じ趣味を持つ人が、同じように生活している」
このことが、深く心に残りました。
さらに、日本人の学生をこれまでにも受け入れたことのある家庭だったからか、困ることがほとんど無く快適に過ごすことが出来ました。
つまり、ホームステイを選んで大正解だったのです。
楽しく驚く毎日
現地の大学には、日本から来た学生は私ともう一人だけしかいませんでした。そんな状況だからこそ、自分で考え、学び、新しく人間関係を結び直す機会が出来たと感じています。
大学のカフェテリアで教授が紅茶を買ってくれたことがあります。不安げな新入生だから優しいのかと思っていたのですが、他の教授も当然のようにそうしてくれたことに驚きました。
今振り返っても、頻繁に話し合う時間を取ってくれる教授ばかりで、私の小さな疑問を一緒に、真剣に考えてくれたことは貴重だったと感じます。
いつも片手に紅茶を持って、現地の政治や日本の政治、暮らしのあれこれを話し合ったことが、日本にいる今も私の生活に「ティータイム」として残っています。
そして、日本では入っていなかったサークルに入りました。
ジェンダーとセクシュアリティについて考えるサークルです。
大学内に掲示板があり、そこで「部員募集」のお知らせに記載されていたメールアドレスに連絡を取ってみました。
実は、私と部長しかいない本当に小さなサークルで、私が来るまで誰も部員がいなかったと知り、二人で笑いました。
最初に出会った時、「本当に部員が?」という雰囲気が全面に出ていた部長の表情が印象的でした。
部長は、私が大学の課題で困っている時に時間を取って勉強を見てくれたり、おすすめの本を紹介してくれたり、と本当に心優しい人でした。
さらに、大人数で話し合うのは苦手な私にとって、二人きりで話し合うというのはとても合っていて、充実した時間でした。
家の中のこと、学校のこと、周囲の人々のこと、何に関心を持っているかなど様々なことを話し合いました。
「世の中は考えるべき課題ばかり。だからまずは、話さないと!」
ということを教えてくれたサークルです。
この時の経験が、今の大学院での研究へと繋がりました。
大学院生の今、思うこと
スコットランドでの留学体験は、私をさらなる学びへと後押ししました。
同じ興味関心を持った人々と、日本の外に目を向けた途端に出会ったこと。
日本に持ち帰って考えるべき社会問題に気が付いたこと。
子供と暮らす大変さをほんの少しだけ体験し、多くの子供たちとその親が楽しく暮らせる世界をより強く望むようになったこと。
そして、困っている人のために時間を使うこと。
困っている私のために、たくさんの人が一緒に考えてくれたように、私も困っている人と一緒に考えられる人になりたいと思ったのです。
スコットランドは、忘れられない大切な旅先であると同時に、またいつか帰りたい故郷です。
余談
スコットランドに到着したのは夜でした。
緊張と不安で水分を取る余裕が無かった私は、カラカラに喉が渇いていたので空港内の自販機を見つけて安堵しました。
あまり飲み物の種類は分からなかったのですが、最も飲めそうなものを選んでお金を投入、ボタンを押しました。
これで、水分を取って元気にホストファミリーに挨拶しよう…
そんな気持ちでした。
飲み物は、自販機内に引っかかって、落ちてきませんでした。
周囲にはほとんど人がいない夜の静かな空港で、空しく傾いたまま止まった飲み物。カラカラに乾いた私。
ちょっと自販機を叩いてみたものの効果は無く、諦めて予約していたお迎えのタクシーに向かいました。
夜のスコットランドを、大音量のラジオ放送と共に駆け抜けるタクシー。
運転手のスコットランド英語を新鮮に感じながら、ホームステイ先に着きました。
ホストマザーは笑顔で私を歓迎した後、マグカップに温かいミルクティーを入れて出してくれました。
ついに、水分です!
そのミルクティーがとても美味しくて、甘くて、良い匂いがして、安心感に包まれたことを今も覚えています。
暖かい家と、夜の中で間接照明が少し灯った部屋で、柔らかいソファに座りながらホッと一息つきました。
私も誰かを迎える時には、「喉が渇いていない?何か飲む?」と聞こうと思った体験でした。