土へ行こうかな
海原に大の字で寝っ転がって、空を見よう。
寄せる波は、きっと僕の心を必要以上にこそぎ取ってくれる。
湯上がりの干し柿
湯上がりの干し柿が言った。
「良かったら私の宿においでよ。
内陸地でペンションをやっているのでね」
方言がきつく、はじめこそ言葉の意図が掴めなかったが、
たった4行で僕は完全にモノにした。
その晩は、すでに宿を決めていたので、
また別日にでも声をかけてくれるようお願いした。
タオルケットの繊維を数える。
白とオレンジの境目を探す。
「手が震えるのは、脳がそう命令しているからだよ」
そういった僕の子どもは、もう僕の歳を越えて越えて...
僕の手を掴、もうとする。
もういちど、
僕の手を掴、もうとした。
僕の子どもは、すぐに諦める。
そういうやつだ。
いや、そういうやつに、僕がしたのかな。
「掴める時が来たら、また僕の手を掴んでよ」
僕は子どもに声をかけた。
ペン先のカルキ臭を嗅ぐ。
先だって訪ねてきたホーロー製の紙コップ。
訪ね返す。
「今晩は」
「おや、まさか本当にね」
「その言いようはなんだい、君が折り返し尋ねてくれと頼んだんだぜ」
あえて不服を隠さずいった。
奴は特に気分を害した様子もない。
「まあ、入ンなよ。夕飯は?ちょうど小さな銀杏を用意したところだよ」
「そうか、いや助かる。邪魔するよ」
靴を脱いで玄関をくぐる。
墨汁の川に、星が反射して綺麗。
そう思うことができるならば、あの土手でまた逢えるだろうか。
あたたかい銀杏を、ひとつは食べ、ひとつは植木鉢に埋めた。
「頼んだり、お願いしたり、僕にはそのひとつひとつが大切な藁で、すぐにでも縋りたくて、そういう気持ちでいたんだけどなあ」
だれに言うつもりもなかった、つっかえ事が、植木鉢の芽が出たひょうしに、つい、綻び出てしまう。
「 」
ああ、また知らない方言だ。
「おうい、訛りがキツいよ」
「自分のための藁は、空洞に想いがこめられていない。そのせいじゃないか?」
「...」
今度は奴の知らない方言で喋ってやろうかと思ったが、その気すら失せた。
「助言されに来たんじゃない、帰らせてくれるな」
僕は鰹を燃したかっただけだ。
縋って、手に入れて、漁港で仕入れた鰹を美味しくいただこうとしただけだ。
引き止める奴の手を振り解いて、足速に地面を掘った。
冷たい土が関節と関節の隙間に入り込んで落ち着く。
人との関わりを避けては動けない。
ならばセーブポイントを配置するように、
使わせてもらおうとしていたのは、
僕じゃなくて、きっといつかの誰かだったかな。