スズメ
ジャングルジムを登っただけなのに、ぴーちゃんは江戸時代に来てしまった。
道行く人、みんなが着物を纏い、ザ・江戸って感じを出している。ざわざわとおしゃべりな人が多い。
知らない言葉ってわけではない。なぜならぴーちゃん、最近は歌舞伎にどんはまりだからだ。「八才なのに渋いねぇ」とよく言われる。脳内で自動翻訳され、すべて理解できる。
とりあえず真っ直ぐ歩くことにした。
スズメがチュンチュン鳴いている。
すると背後から呼び止められた。
「ちょっとぴーちゃん、寺子屋はどうしたの?」
多分そう言った。ぴーちゃんが振り向くと、おハツさんがいた。これは間違いなく、おハツさんだ。
きのう親戚が集まったおじいちゃんの家で、外国から来た絵描きさんに描いてもらったそうだと、一枚の絵をおばさんが見せてくれた。
「これが、おハツさん。私たちの、ご先祖様」
そこにはほくそ笑むおハツさんがいた。決して上品とは言いがたい様子だった。
「ぴーちゃん、何そんなにしかめっ面してんの?ご先祖様なのよ。手をね、こうやって合わせるの」
おばさんは、絵に向かって手を合わせ、頭を下げた。ぴーちゃんも真似をした。
そのおハツさんが、今、目の前にいる。
「サボったのかい?」
「そんなことしないよ。今から行くよ」
ぴーちゃんは寺子屋がどこにあるのかわからないが、口から勝手に言葉が出てしまった。
「ふーん。じゃあ、今すぐ行っておいで」
おハツさんは寺子屋があるのであろう方向を指した。
「うん、わかったよ」
するとぴーちゃんは体が急に軽くなり、ぐらぐらして気を失ってしまった。
気がつくとぴーちゃんは、公園の地面に寝ていた。
起き上がると、スズメと目が合った。
スズメはチュンチュン、空に飛んでいった。
(了)