七草粥
お正月に贅沢をした体を労るために無病息災を祈って七草粥を食べるのだと、昔、近所のおばあさんが言っていた。そうなのかどうなのかはわからないけれど、そうなのだろう。おばあさんは何でも知っていたから、色々なことを教えてくれた。先生や師匠という感じではなくて、おばあさんはおばあさんだった。多分、みんなが思い描くおばあさんだと思う。おばあさんは、ザ・おばあさんなのだ。
そんなおばあさんがフラフープを教えてくれたときは、驚いた。あれだね、おばあさんをおばあさんだと思い過ぎていたんだろうね。おばあさんは、学校の先生よりも速く長く、たくさんの技を混ぜながらフラフープを回して、帰らないといけない時間になるまで、じっくり教えてくれた。
おばあさんは、もういない。
まだ、七草粥を一緒に食べたあの日を昔に思うことはできないけれど、いつか、昔に思うのだろう。その日が来ても私は、へこたれちゃいけない。おばあさんのような存在になりたいから。フラフープをいつまでも回したいから。
そう思って私は、空になった器に、手をあわせた。
「え、おばあさんって誰」
(了)