ポンコツストーリー11 -「バナナミルク」を遠慮する-
子どもがどのような理由で遠慮を覚えたりするのか分からないが、私は遠慮する子どもだった。
以前書いた、「騙し、騙され -その14 奇術師と子ども編-」を読んでくださった方はお分かりだと思うが、私は小さい頃から自分以外の人の事を考えすぎる子供だった。
私の母は、料理を作るのが好きだった。
好きだっただけでなく、上手でもあった。
家族のひいき目ではなく、周囲の人の感想が総じてそのような内容だったので本当に上手なのだ。
実際、他の家のいわゆる家庭料理で母のレベルと同レベルのものが出てくることはほぼなかったし、母のレベルを超えてくるものもそれほど多くない。
私は母の手料理が好きだったし、母の作るお菓子もおいしくて好きだった。
中でも私が一番好きだったのは「バナナミルク」だ。
バナナと牛乳、砂糖か蜂蜜を加えてミキサーに入れてガーッとやったら完成するあれだ。
私は、母の作ってくれる「バナナミルク」が大好きだった。
甘くて、美味しくて、まさにパーフェクトな味だった。
母親の料理の腕とどう関係があるのか?と思われたかもしれない。
そう、全く関係ないのだが、これほど美味しいものを作れる母はすごいと思っていた。
母はおやつ時間になると時々、「何がいい?」と聞いてきた。
私はお菓子は何でも好きだったのだが、大体いつでも「バナナミルク」を飲みたかった。
「バナナミルク」
そう答えたかったし、
そう答えればよかったのだ。
しかし、私はそう答えられなかった。
当時の私の脳内は、
「バナナミルク」はあんなにも美味しい。
ということはものすごく高いものに違いない。
きっとものすごい手間もかかるのだろう。
そんなものを飲みたいって言ったら申し訳ない…
と考えていたのだ。
あえて言っておくと、それほど貧しい家で育ったわけではない。
父は、おじいちゃんが経営する会社で働いていたし、母は専業主婦だった。実際にあるのか知らないが、夜なべして封筒を折ったり、紙の花を作る内職などをしているのも見たことはない。
小さい頃から自分の部屋があったし、車もトヨタの中級より少し上のグレードの車があった。
所謂お金持ちではないものの、日々の食べるものに困るような家ではなかった。
しかし、当時の私は遠慮したのだ。
バナナミルクなんて高級品に違いない。
それを要求するなんて申し訳ないと…。
そういう理由で、私は母から
「バナナミルク飲む?」
と言われない限り、自分から飲みたいということができなかったのだ。
今では、庭にバナナの木が生えていて、大した世話もせずに収穫できる。
そもそも、タイでは無料みたいな値段で大量のバナナを買うことができる。
もちろん、日本でもバナナはそれほど高くないという事も知っている。
ただ、当時の価値観としては
「美味しいもの、それは高い」
と思い込んでいた。
そんな幼い頃の淡い記憶をなんとなく思い出した。
※単独の記事として公開していましたが、幼少の頃のポンコツなエピソードでもあるので、シリーズ記事に組み込みました。