彫刻家・安部大雅さんの個展 ー大理石の作品たちにみる、ペルージャの変遷ー
イタリア、ウンブリア州はペルージャへ。
今回この地を初めて訪れたのは、観光ではなく、彫刻家・安部大雅さんの個展を見るため。
この個展について、三つのポイントに分けてレポートします!
●1. 場所性
個展の会場に選ばれたのは、パオリーナ要塞。
1540年に建設され、1860年まで古都に対する教皇権力の象徴だったそう。
ローマ教皇パウロ3世の命によって、彼に反旗を翻したバリオリーニ家の家屋の上に建てられた。
ちなみにこの要塞、中にエスカレーターが設置されている。
過去と現在が同居するような、独特の雰囲気を持った要塞。
また、この個展のタイトルは、”時層”。
これは、地層のように積み重なった時の堆積を意味する、安部さんが造った言葉だそう。
それぞれの作品は、長い歴史の中でペルージャという街が変遷していく姿を表現している。
伺った時期は雨が時々降っていたためか、要塞の中へも水がやってきていた。
私にとってこの雨漏りは、個展のテーマとリンクして、作品たちと調和しているように感じられた。
つまり、ペルージャという街が経験してきたのは、晴天のような順調な時期だけではない。
曇天や、時には厳しい雨の中をかき分けながら進むような、大変な時期も経験してきたのかもしれない。ということ。
雨漏りでできた水たまり越しに作品を見ながら、過去のペルージャに想いを馳せていた。
●2. 彫刻家・安部大雅さんの魅力
26年前に要塞に入ったときから、”いつかこの場所で彫刻展を…”と思われていたそう。
その直感力は驚くべきもの。
さすがアーティストさん…!
また、やりたいことを26年間しっか見続けて実現させるカッコ良い生き様も、安部さんの魅力の一つだと思った。
自分がやりたいことや見たい光景を見続けることは、誰にとっても簡単なことではない。
諦めたり、周りの声に流されたり、いつの間にか忘れてしまったりすることがあるから。
●3. 彫刻の面白さ
この個展を訪れたことによって、私の彫刻に対する見方が変わった。
彫刻というと、形の表現というイメージがあったので、線や質感でも表現できるのが驚きであった。
また、インスピレーションがどのようにこれらの形に至るのか。
例えば、安部さんにとっての失意というイメージはこの形になるのか、というのを考えるのが面白かった。
というのも、いつも私が見ているのは絵画がほとんど。
絵画は、作品に表出する作者のイメージを想像しやすく、答え合わせをするようにタイトルを見ると、自分の予想通りだったことが多い。
一方で彫刻、特に今回見た彫刻作品たちは全て大理石なので、まず色の表現は絵の具ほど広くない。
その中で形、線、質感、大きさだけで表現されているため、いつも見ているアートとは違った見方を求められる感じが、新鮮で面白かった。
●ミラノでの展示
個展に合わせ、ミラノのMUJI Corso Buenos Aires店でも、現在作品が展示されている。
これは、ペルージャにある作品たちの、小さいバージョンだそう。
今回ペルージャの、そしてパオリーナ要塞の中で作品をみれたことに、特別な意味があったと思っている。
この先 イタリアの他の都市や、もしかしたら日本で、今回の個展の作品たちにお目にかかれる機会があるかもしれない。
ただ、きっと他の場所で初めてみたら、感動が違っただろうな。
ぜひ皆さんも、ペルージャの会場へ!
そしてもし会場で安部さんにお会いできたら、ぜひお話ししてみてください!
とても魅力的で、面白い方なので!
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