無い物は無いにも有ると無い
〔解説〕
このことわざはややこしいので、落ちついてお読みいただきたい。
一般的には「無い物は無い」が定着しているので、まずはこの解説を。
「無い物は無い」には二つの意味がある。一つは「なんでもそろっているので〝無い物〟はない」、つまり〝なんでもある〟ということ。
もう一つは意味が逆で、「ほんとうに何もなくて、物なんて何もない」という意味。つまり、実際に〝何もない〟ということ。(※「無い物は無い」はパロディーでなく本物のことわざ)
〔さらに解説〕
「無い物は無い」は、本題の「無い物は無いにも有ると無い(※このことわざはパロディーであり、実際にはありません)」が省略されたものだ。
この変なことわざは、「〝無い物は無い〟と一口に言うけれど、実際には物が有る場合と、本当に何も無い場合とがある」という意味である。
ということだが、それでもわかりづらいので例を示す。
●実際は物がある場合
「凡子さん、ざっくばらんな話、誕生日のプレゼント、何が欲しい?」
「なんでもあるから何もいらないわ。アパートだから狭くて、物を置く場所に困るほどだし。ほんとに〝ないものはない〟というくらいなんでもあるんだもの。凡太さんの愛にも満たされてるし。やだ、土曜の夜のこと、思い出しちゃったわ」
●ほんとうに何もない場合
「お富、俺は博打で負けて一文無しだ。おめえのためにも、ここらで縁を切らせてもらいてえ」
「銀次親分、あたしはカネに惚れたんじゃないんだよ」
「わかってらあな。だがな、引き際ってもんがあるんだ」
「あたしを一晩中眠らせてくれなかったこともあったねえ。このところめっきり減ったけど」
「腰が痛えんだ。おめえのせいだぜ。それはともかく、せめて塗下駄のひとつも買ってやりてえところだが、それさえできねえ」
「じゃあ、夕飯の豆腐のお金だけでもちょうだい」
「それもねえんだ。ねえものはねえんだ」
やっぱり例えてみるのがいいや。