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「1.8リットル瓶」より「一升瓶」
シャクトリムシ(尺取虫)の名が、その虫が歩く(?)ときに、人間が親指と人さし指を広げて長さを測るような格好で進むことに由来するのはご存じの通り。言うまでもなく、「尺を取る」というのは長さを測ることを意味する。
ついでにシャクトリムシのことを調べてみた。シャクトリムシはシャクガ科の幼虫の総称で、シャクトリムシという名の成虫がいるわけではないということがわかった。
シャクガは漢字で「尺取蛾」と書く。「尺蛾」ではなく「尺取蛾」だ。「尺蛾」のほうが適正な表記だと思うが、なぜそうしないのだろうか。
反対に、「尺取蛾」と表記するなら読みを「シャクガ」ではなく「シャクトリガ」にするほうが自然だろうと思ったりもする。
さて、日本の度量衡の基本単位として使われていた尺貫法が姿を消してからずいぶん時が経った。尺貫法の歴史は、メートル条約への加盟やら法改正やら、非常に複雑な経緯をたどり、併用混在などの期間を経て、昭和41年3月以後は、計量法施行法により、取引や証明には使わないこととなった。
そんなわけで、現在ではシャクトリムシの立つ瀬はなくなってしまったが、尺貫法が絶滅してしまったわけではない。
不動産業界の場合などはいい例で、物件の紹介や広告用印刷物などでも、いまだに坪換算の面積が括弧書きで併記されているのを見かけることもある。
また、私が住んでいる地域には農業を営んでいる人も多いが、その人たちの中には、田畑の面積を、4反(たん)3畝(せ)などという人もいる。
私もメートル法の時代に生まれ育ち、頭の中の計測器は完全なメートル法になっているはずなのだが、どういうわけか、面積に限ってはヘクタールやアールより坪のほうがわかりやすい。
尺貫法と縁を切ることができなかったおとなたちの影響を受けたせいだと思うが、例えば800平方メートルと言われた場合、わざわざ坪に換算し、「ああ、240坪か」などと、少し間をおいて理解することになる。
「800平方メートル」ではぼんやりとしている広さのイメージが、「240坪」ならすんなりと思い描けるのだ。
混在しているのは尺貫法とメートル法だけではない。身近なところではヤード・ポンド法がある。これは、テレビ画面やタイヤのサイズなどで使われている「インチ」や、石油関連の報道などで見聞きする「バレル」でおなじみだ。フィートやオンスなどもそうだ。
こんなぐあいで、単位が多かったり混在していたりするから、昔から算数や数学が苦手だった私は不都合に思っている。なにしろ私は、西暦と年号が併用されているだけでもややこしいと感じているのだ。
ただし、メートル法やヤード・ポンド法を否定しているわけではない。また、尺貫法の“人格”などはおおいに気に入っている。なにしろ日本固有の単位系であり、国民性もあるし風情さえ感じられる。だから、酒瓶などは「1.8リットル瓶」より「一升瓶」のほうがいいと思っている。
ところで、計量法施行法の施行によって尺や貫を使わないようになってからも、匁(もんめ)だけは真珠に限って認められている。匁が外国で真珠取引の重量単位(momme)として使われているからだ。ちなみに、1匁は約3.75グラム。
尺貫法もたいしたものだ。