さもしい根性の小ネタ4題
食べ放題
まずは軽い話から。親しい知人A氏から聞いた話。
旬のぶどうを食べ放題とうたったツアーがあった。現地へ到着していよいよ食べ放題が始まった。
しばらくすると、ある男性が「こんなの二級品じゃないか。なんだよこんなの」と、一人でぶつぶつ不満を言った。少し離れたテーブルでそれを耳にしたA氏は、いっしょに参加した友人に「こんな格安ツアーなんだもの、あたりまえじゃないか」と言って友人と笑ったそうだ。
A氏の言うとおりだ。物事はどこかで帳尻が合うようにできているのだ。格安で食べ放題なんだから、二級品だってしかたがないではないか。
ご来店感謝
私のクライアントだったB氏がうどん店を新規オープンしたときの話だ。
彼はオープン数日前、「開店日にご来店のかたに記念品をさしあげます」というチラシを配布していた。
開店すると大盛況で、うどんが足りなくなる心配をするほどだった。そんななか、何も注文しないで、記念品をくれと言い張った人がいた。
B氏は、何か食べていただくことが前提と説明したがその人は承知しなかった。チラシには〝ご来店のかた〟とあって、食べたかたとは書いてないというわけだ。チラシの文言はそうなっているから、理屈をこねられたらそれまでだ。結局B氏は根負けし、記念品をあげた。
世の中には常識というものがあるが、「無理が通れば道理が引っ込む」という言葉もある。あるいは「泣く子と地頭には勝てぬ」とも言うが、それにしても、と思う。
試食会
C氏から聞いた話。C氏は地域のボランティアとして、友好市との共同企画である海産物の試食会にスタッフとして参加した。
群馬県は海なし県だ。新鮮な海産物を試食できるとあって大勢の人が訪れた。そのなかに、父親と息子と思われる二人連れがいた。息子は小学校低学年のようだ。
その親子はすべての試食コーナーを食べ歩いた。そして、満足そうな表情で出口へ向かった。出口付近にいたC氏の近くまで来たとき、少年は父親に向かって「一食分助かったね」と言ったという。
これはちょっと考えさせられる話だ。たとえば、事情があって父子家庭になった息子が、家庭の経済のことをつい口走ってしまったとも考えられる。
逆に、単にあつかましく〝ただ食い〟を狙って来たのかもしれない。もしそうなら、さもしいにもほどがあるということになる。
気になる「一食分助かったね」だ。
夜逃げ
ここでふたたびうどん店のB氏が登場する。
B氏のうどん店は何年もたたないうちに経営が行き詰まった。B氏はうどん店だけでなく、オリジナルの乾麺も製造販売していたが、どっちも立ち行かなくなってしまった。
借り入れは返済が滞り、乾麺用の資材やら何やら、買い掛け金の支払いもできなくなった。
春の大型連休が明けた日、社員が出社したが社屋の入り口は鍵がかかっていて開かない。社員はパニックになって右往左往したが、判明したのは、社長であるB氏一家が連休中に夜逃げをしたことだった。夜逃げには、大型連休は絶好のチャンスだった。周到に計画された夜逃げだったのだ。
じつは私も、仕事用のパソコンを買えるくらいの売り掛け金を踏み倒されたのだった。
これらの小ネタは四つとも、私が現役だったときの話だが、さもしい根性の持ち主はどこにでもいるのだ。