フローリスト的、感性をデザインに落とし込む方法 vol.4
コロナ禍でパリに行けない日々が続いていますが、そんな中でもやっていること、できることはありますか?とお話を伺ってみました。
B : 年に一度はブラッシュアップにパリへ行かれていたと思うのですが、行けない今、パリのエスプリを補う何か、やっていることなどはありますか?
S:今、そのために特にやってることはないです。すごく感覚で生きている人間なので、例えばYouTubeでパリの街並みを見たとしても正直なにもそこからは感じないし得られないんですよ。
その場にいないと、その場のことは感じられない。だから無理にパリっぽいことはしてないです。
逆に、日本の美しいところ、良きところを愉しんでます。そうすると、私の中にあるパリの感性、エスプリとかがちゃんときれいにふっと出てきてくれるんです。だからそういう意味でも、日本の花、日本の固有種に興味がある。
最近の興味は植物学なんです。根っこの付いた植物のことを、仕事に活かすというよりは趣味として勉強してみたい。例えば、桜もソメイヨシノって作られた品種で、山桜が日本の固有種なんですよね。山桜は先に葉っぱが出るってことを知って。桜ってまず花、それから葉っぱと思っていたから、知った時にビビビ!ってきて、もっと植物のことを知りたいと思ったんです。私、全然知らんやんって思って。
パリに行けないからと焦ってパリっぽい何かを求めるのではなく、逆に今いる日本のことを知りたいという幸恵さん。当たり前のように身を置いていたパリから少し離れたことで、新しく見えてきたこともあるようです。
S : パリに行かないと、パリスタイルっていう囲いが小さくなったり高い塀みたいになってしまって、超えられないし戻れない、みたいな感覚に陥ってしまうんです。ちっちゃくなる感覚。でもパリに行くとその囲いがバーン!となくなってしまって、幸恵先生としても個人としてもいろんなしがらみとか考えてたことがなくなるんですね。
それで囲いがなくなった状態で帰ってくると、花合わせがまず全然違うんです。でも半年くらいたつと、囲いができてきたな、って自分でも気が付き始める。花合わせも、これだけやとあかんかな、ちょっともう一つ足そうかなとかごちゃごちゃし始めるんです。
B : いろいろ考え始めるってことですか?
S:いろいろ考え始めるし、自分でパリスタイルっていう囲いを作り始めて固くしてしまってる。ほんとはきれいと思っているのに排除してしまったりとか。
でも今はパリに行けないじゃないですか。だから、その囲いを自分で取っ払ってみようかな、ってやってみたらちょっとできたんですよ。
今日のアキレアなんかがそういうことで、パリスタイルって囲いの外にある花、日本固有の花、日本に昔からある花なんかが最近きれいやなと思うんですよ。それは囲いを取っ払ってるから、素直にきれいやなって思うし素直に手に取れるし、手に取ろうと思えるんです。
だから意識していることがあるとすれば、その花がパリっぽいかとか、うじゃうじゃ考えないで最初にきれいと思った自分の心と感性を大事にしたいということ。
それで今の気分は昔からある花、ちょっと野暮ったさがあって、なごむ感じ。
B : 確かに、可愛いな~と思っても、これはパリスタイル的にはどうかなって考えてしまう自分がいます。
S:そうでしょう?そうすると、パリスタイルって何よって話になる。
由美さんも進化してるから私もそれを楽しめるようにと思ってますが、それはたぶん、自分のスタイルがちゃんとあるから楽しめる。基本はこれだけど、ちょっと違う道に行ってみようってことができる。前はそれができなくて、戻ってこれないかも、とか、どう思われるか気になったり。
やったことあって想像つく花合わせだと安心だし間違いがないけど、そうじゃない時があってもいいし、もしうまくいかなくてもそれはそれ。ちょっとおもしろかったな、あれは変やったな~笑、みたいなのもいいと思う。
B : そうやって思えるようになったのは最近ですか?
S:もうめっちゃ最近です。去年の春、コロナで自粛してた頃から少しずつ。
きっかけは、自宅に飾る用の花送りをし始めたことかな。それまではブーケにできるかという視点でしか花を選んでなかったけど、花送りはそれぞれ花瓶に飾って下さいというものだから、花合わせの必要がなかったんですよ。
そこから見方が変わって、あ、これも可愛いやん、って思えたり。
それと、書道を本格的にやり始めて、そうすると日本画にも興味が出て、植物が描いてあると、あ、この花こんな昔からあるんやとか。そこからさっきも話した植物学とか、どんなふうに生えてるか自然の中に行って実際見てみたいとか。
そうすると市場での過ごし方も変わって、昔からの生徒さんにめずらしい花合わせってびっくりされたり。
上手くできるとは限らないですよ、今日みたいに意思疎通できるまでに時間がかかることも。
命あるものに触れるには心なくしては絶対にうまくいかないし、今は初めましての人をお迎えするのが楽しい感じ。
でも自分でこれは私らしくないかも、パリスタイルらしくないかもって思っていたらそれは表に出てしまうと思う。だから、私がちゃんと楽しんでたらみんなにも楽しんでもらえる。
それに日本に前からある花、たくさん流通してる花を改めて可愛いと思えたら、魅力再発見やし花業界全体にもいいことやと思います。
そうして、今興味がある花として幸恵さんがあげたのは、菊でした!これまではパリスタイルの対極にあると思っていたような、昔から日本にある花。でも確かに生産者さんの努力でたくさんの品種が生まれてどんどん美しくなっていて、うまく使ったらとても素敵なブーケになりそう。これからの幸恵さんの花選び、ますます目が離せません!
S:コロナ禍のいろんな事情でなかなかレッスンに来てもらいにくい状況ですが、それでも、これだけはやりたい、続けたいって思ってもらえる教室でありたいです。
ディプロマレッスンが休講になり、空いた枠で何かレッスンの要望ありますか~って募ったらいろんなアイデアが出てきて。でも共通してるのが私の経験とかそれに基づいた基本的なことを教えてほしいってことなんです。
幸恵先生として教えられることも、私の中では明確になってきました。新しいことも身軽にやってみたいと思ってます。パリスタイルも、きれいならいいやん、ってシンプルに。花合わせも、パリっぽいかとか気にしすぎるともったいない。
子供の頃から、植物の声が聞こえてたと思うと話す幸恵さん。目の前の花や草木と目を合わせようとする姿勢、心を寄せる優しさがあったから、声が聞こえてきた。きっとそう思うのです。
そこから育まれた感性をフルに活かし、植物を含む自然と対話することが、幸恵さん独自のパリスタイルを生みました。そして幸恵さんのセンスで、パリと日本がうまく溶け合いながら進化を続けています。
理想はパリに居ることだとおっしゃっていましたが、私としてはぜひ日本で、幸恵さんのパリスタイルのこれからを見ていたいな~なんて思うのです。本当に勝手なお願いですけれど笑、きっと多くの生徒共通の願いではないでしょうか?
幸恵さんが由美さんをリスペクトしながら独自の道を行くように、私たちもまた、それぞれの道を胸を張って進むためのヒントを沢山頂いたインタビューでした。幸恵さん、どうもありがとうございました!
※2021年7月のインタビューです
HP https://raffineelesfleurs.com/index.html
Instagram @raffineelesfleurs
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