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クラシック音楽の話(42)

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『四季』


 ヴィヴァルディが残した器楽協奏曲は300曲をこえ、オペラも100編くらい作曲したそうですね。残念ながらオペラについてはその大部分は失われてしまったものの、彼はオペラ作家として認められるのをずっと願っていたといいます。そんなせいか、ヴァイオリン協奏曲『四季』が表現する旋律はオペラ・スタイルに属しているようだと、この曲を録音したチョン・キョンファは語っています。ヴァイオリンによる情熱的な旋律は、オペラのプリ・マドンナにたとえることができる、って。けだし同感であります。

 全曲にわたる雄弁で美しい音色に耳を傾けていますと、私たちそれぞれが思い描く四季折々の風景が見事に重なり、いろいろな自然物や人や動物が生き生きと活動している姿が眼前に浮かんでくるかのようです。ただし、ヴィヴァルディがこの曲で描いたのは、当然ながら彼が生まれ育ったイタリアのヴェネツィアの四季の風景です。私たちが思い描く日本の景色とはちょっと違っているかもしれません。CDのライナーノーツには、その内容が次のように解説されています。

【春】
第1楽章 アレグロ
 春がやってきた。小鳥はさえずりながら飛び回っている。そして小川のせせらぎに出会う。しかし、急に春の嵐がやってきて、雷が轟音を立て激しく雨が降る。やがて嵐は去り、再び小鳥たちが楽しげにさえずる声が聴こえる。小鳥の声をソロ・ヴァイオリンが高らかに華やかにうたいあげる。
第2楽章 ラルゴ
 風にそよぐ牧場の樹々の音と、のんびりと吠える牧羊犬の声で始まる。花が咲き乱れる牧草地で、羊飼の少年は穏やかに眠っていて、寂寞とした犬の声が辺りを取り巻く。弦楽器の静かな旋律にソロヴァイオリンがのどかなメロディを奏でる。ヴィオラの低い音色が吠える犬を表現している。
第3楽章 アレグロ
 春の日差しの中、農夫と羊飼いの少年が陽気に踊る。
 
【夏】
第1楽章 アレグロ・ノン・モルト-アレグロ
 灼熱の太陽が照りつける暑さで、人も羊の群れもぐったりしている。松の木も燃えそうに熱い。けだるさを破るようにカッコウの声が聞こえる。そしてキジバトの声も。そよ風が北風に変わり、荒く猛々しく牧場を壊し、穀物を吹き飛ばす。少年は泣きじゃくるが、北風は容赦なく吹きつける。ヴァイオリンの一瞬一瞬の“間”を挟んだ音の連続が荒れる嵐を表現している。
第2楽章 アダージョ
 暑さにくたびれた羊飼いの少年は眠り始めようとするが、稲妻と雷鳴の轟きで眠るどころではない。さらにブヨやハエが周りにすさまじくブンブン音を立てる。それは甲高い音でソロヴァイオリンによって奏でられる。
第3楽章 プレスト
 またしても更に激しい嵐が襲ってくる。誇らしげに伸びていたる穀物を打ち倒してしまう。

【秋】
第1楽章 アレグロ
 農夫たちが収穫が無事に終えて大騒ぎ。ブドウ酒が惜しげもなく注がれる。彼らは、ほっとして眠りに落ちる。
第2楽章 アダージョ・モルト
 大騒ぎは次第に弱まり、酒はすべての者を無意識のうちに眠りに誘う。チェンバロのアルペジオに支えられてソロヴァイオリンは眠くなるような長音を弾く。
第3楽章 アレグロ
 夜が明け、狩人が犬を従え狩猟に出かける。獲物は彼らの追跡から逃げ惑うが、やがて傷つき、獲物は犬と奮闘して息絶える。

【冬】
第1楽章 アレグロ・ノン・モルト
 冷たい雪の中を歩き回る。非情な寒さから歯が噛み合わない。さらには寒さをまぎらすための足踏みも。ソロヴァイオリンの重音が歯のガチガチを表現している。
第2楽章 ラルゴ
 雰囲気はがらりと変わり、暖かな室内。外は雨が降っている。暖炉の傍らで満足そうに休息。ゆっくりしたテンポで平和な時間が流れる。伴奏のピツィカートは、しとしとと降る雨を描写している。
第3楽章 アレグロ
 氷の上を、ゆっくりと用心深く、転ばないように歩いている。ソロヴァイオリンは弓を長く使ってこの旋律を弾き、ゆっくりと静かに続く。しかし突然、滑って氷に叩きつけられる。氷が裂けて割れ、北風がビュービュー吹きつける。そんな冬だが、もうすぐ楽しい春がやってくる。
 

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