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クラシック音楽の話(25)

クラシック音楽の略語


 クラシック音楽を聴き始めて間もないころ、小学生のときからクラシック音楽ファンだったという職場の同僚が「メンコン」とか「チャイコン」とかいう言葉を発していて、いったい何を言っているのかと思いました。聞けば、「メンコン」はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、「チャイコン」はチャイコフスキーの同協奏曲の略語だといいます。ほかにも「モツレク」「ベトコン」「ブラ1」「ブラコン」など色々あるのだと教えてもらいました。

 まー確かに、いちいち長い正式名称で言っていたら面倒くさいですからね。なかなか便利な言い方だと思います。ただ、言葉の響きとしては、どれもあまり格好よくない感じがします。とくに「ベトコン」なんて、ベトナム戦争のときに南ベトナムの武装共産ゲリラを蔑んで呼んだ名前と同じで、私なんぞはむしろそちらの方を先に想起してしまいます。だからって「ベーコン」にすると食べ物みたいだし、「モツレク」もオムレツみたい。「ブラ」となると・・・。

 ところで、これらの略語は、クラシック音楽ファンばかりでなく、プロの演奏家の人たちも使っているのでしょうか? 聞くところによると、演奏家側はそういうの気に入らないそうですし、殆ど使わないらしいです。全ての人がそうであるかは知りませんが、これはさもありなんというか、何となくわかる気がします。プロとして自分たちが真摯に取り組んでいるものを略語で呼ばれたら、何となく軽んじられているような不快な気持ちになるのではないでしょうか。作曲家本人が聞いたら、なおさらだと思うんです。

 実は私も以前、自分たちの仕事の内容に関して、全く門外漢の第三者から略語的な軽い言い回しで言われて、ちょっと「むっ」とした経験があります。別にお高くとまっているわけではなく、自分が大事に思っているが故の、率直な感情なんだろうと思います。ほかにも私たちの普段のシーンのなかで、略語というのは往々にして礼を失してしまう場合があります。例えばビジネス現場で、ある会社に郵便物を送るときの宛名を「株式会社〇〇」ではなく「(株)〇〇」と書いたら、たいへん失礼になります。まして社名そのものを略すなんて、絶対にあり得ない。相手の肩書も然り。

 だからと言って、「メンコン」「チャイコン」などがこれと全く同等だというつもりはありませんし、むしろ親しみを込めた愛称だという考え方もありましょう。まして、そんなファンの方々に、曲を軽んじる気持ちなど、さらさらないはずです。でも、私の場合、親しみよりもまず敬意の気持ちが優先するものですから、略語で言うのはちょっと引っ掛かるというか、何となく好きじゃないです。まことに天邪鬼な物言いですいません。
 

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