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クラシック音楽の話(13)

マーラーによる異化効果

 以前、あまり詳しくはないけどクラシック音楽が好きという若い女性に、さも得意そうにマーラーの音楽の魅力を熱く語ったことがあります。そして、その後何日か経って再び彼女に会いましたら、あれからマーラーのCDを買ったというんです。「影響されました」って。

 私はずいぶん驚いて「いったい何の曲を買ったの?」と尋ねましたら、《交響曲第4番》だというんです。ますます驚いて「それでどうだった?」と聞くと、彼女は言葉を濁し、なんとなく浮かない顔をしています。要するに気に入らなかったようです。それはそうだろう、しかも、よりによって4番か!と思ったものです。

 この《交響曲第4番》は、マーラーの交響曲のなかで最も「親しみやすい」とか「わかりやすい」といわれる反面、どうしても好きになれないという人も少なくない曲です(とりわけ女性に多いとか)。たとえばチャイコフスキーのようには、まったく陶酔できない!

 その理由は、指揮者の金聖響さんによれば、マーラーがこの曲で意図した「異化効果」によるといいます。「異化効果」とは「同化効果」の対義語で、たとえば映画で主人公の気持ちと一体になって喜んだり悲しんだりできる・・・というのが「同化効果」。反対に観衆や聴衆を「同化」させずに、逆らい、突き放し、悩ませるのが「異化効果」だそうです。

 交響曲第4番は、綺麗なメロディだなと思ったらすぐに否定される。再び現れる美しいメロディもまた裏切られるのではとそわそわしながら聴いていると、今度は最後まで美しい・・・というふうに、何ともスッキリしない天邪鬼な音楽です。マーラーは、たとえば第2番『復活』で表現した「同化効果」とまったく逆のことを第4番でやっているわけです。

 私のような、およそ素直でないひねくれたオッサンには、こうした捉えどころのない「異化効果」はむしろワクワクして楽しくてしようがないのですが、まだ若い身空の女性にはかなり無理があったようです。というか、それが普通で当たり前だろうと思います。彼女にはずいぶん悪いことをしてしまいました。

音楽に関する名言

  • 音楽における自由というのは、自分の好みや気持ちに合わせて、規則を破れるように規則を知っている能力だ。~マイリス・デイヴィス

  • あんたは白人であること以外に何をしたというのだ。オレかい? そうだな、まあ音楽の歴史を5回か6回は変えたな。~マイリス・デイヴィス

  • 朝起きたら頭のなかに素敵なメロディが流れていた。それが「イエスタデイ」になった。~ポール・マッカートニー

  • 素晴らしい音楽を創造するためには、クソみたいなレコードを山ほど聴かなきゃならないんだよ。~ミック・ジャガー

  • 人の声はもっとも美しい楽器である。しかしもっとも難しい楽器でもある。~R.シュトラウス

  • オペラを歌うのはテニスのようなもの。テクニックは必要だけど試合の瞬間はそれを忘れていないと勝てない。~ナタリー・デセイ

  • 37年間、毎日14時間練習してきたら、天才と呼ばれるようになった。~サラサーテ

  • 練習とは追求。そして、本番を楽しむための準備。~渡辺貞夫

  • 演奏は、姿勢ですよ。剣術で刀を構えただけで、「おぬしできるな」と。演奏家も、構えを見れば一目瞭然。弾かなくてもわかる。~朝比奈隆

  • 他人の賞賛や非難など一切気にしない。自分自身の感性に従うのみだ。~モーツァルト

  • シューベルトには神の光が宿っている。~ベートーヴェン

  • 音楽の美は、その一瞬の短さにおいて生命に似ている。~三島由紀夫

  • 光学が光の幾何学であるように、音楽は音の算術である。~ドビュッシー

  • 音楽について話す時、一番いい話し方は黙っていることだ。~シューマン

  • ベートーヴェンは悩み戦っている人々の最良の友である。~ロマン・ロラン

  • 「カルメン」の音楽は完璧だ。軽やかで、優雅で、愛らしく、汗をかかない。~ニーチェ

  • 音楽は、言葉の助けなしに、風の唸りや羊の鳴き声、馬のいななきなどを表すことはできますが、風の語りを表現することはできません。風は語りはしないからです。~モンテヴェルディ

  • ベートーヴェンの域まで達した 作曲家を一人だけ知っている。ブルックナーだ。~ワーグナー

  • 音楽は精神の中から、日常の塵埃を除去する。~バッハ


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