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クラシック音楽の話(23)

ブルックナーの《交響曲第7番》


 作曲家のお人柄についてですが、たとえば、モーツァルトベートーヴェンブラームスマーラーあたりは、それぞれの曲のイメージや本人の顔立ち、伝わるエピソードなどから、どんな性質の人物だったかは何となく想像することができます。モーツァルトは映画『アマデウス』の通りだったんだろうなと思うし、ベートーヴェンは気難しくて癇癪持ち、ブラームスは生真面目なネクラ、マーラーは神経質で分裂気味・・・。実際のところは不確かですが、まー当たらずとも遠からずだろうという納得感はあります。

 ところが、どうにも分かりにくいのがブルックナーです。私には、彼がどんなおじさんだったのか、なかなか想像できません。敬虔なキリスト教徒だったそうですが、曲想からはまるで宇宙人のようだし、人相はいかにも剛直な感じだけど、人に指摘されてしょっちゅう曲を改訂する優柔不断?さもあったといいますし。経歴は、最初は学校の音楽の先生を目指し、またオルガニストとして活躍していたものの、本格的に作曲の勉強を始めたのが32歳と異様に遅い! 女性関係では少女趣味でフラれ続けて生涯独身。また本を読まないため文学的素養に乏しく、オペラも理解できなかったとか。

 ほかにも、多くの焼死者が出た火事の現場に行くのが好きだったとか、殺人事件の裁判を好んで傍聴していたとか、自分が勤務していた教会の前を気に入った女性が通りかかると、声をかけて住所を聞き出そうとしたり自分の交響曲の説明をし出したりとか、かなり理解しがたいエピソードも幾つかあります。そもそも偉人とか天才とされる人には変わり者が多いといわれますが、中でもブルックナーは突出しているように感じます。

 しかし、何より彼を分かりにくくしているのは、彼の交響曲そのものなんだろうと思います。分厚く遠大で剛直で、その故か女性に不人気といわれ、少なからずの男性からも敬遠されるブルックナー。まことに気の毒な思いがいたしますが、しかし、何度も何度もじっくり耳を傾けていると、剛直ななかに、どこからともなく聴こえてくる何とも優しく美しいメロディー。それもチラッと。私はですねー、これこそがブルックナーの音楽の魅力だと強く思っているところです。

 ですから、ブルックナー好きという数少ない女性ファンの方々は、おそらく彼の曲の中に、武骨で不愛想な男がほのかに見せる優しさのようなものを感じ取っているのではないでしょうか(高倉健さんのような・・・違うかな?)。とはいえ、曲の魅力は理解できても、ブルックナー自身の為人(ひととなり)は依然としてよく掴めません。まーこの際は、そこらへんはあまり考えないようにというか、彼の人格とは全く切り離して音楽に没頭したほうがよいのでしょう。

 話が長くなりましたが、実はここで触れたかったのは、彼の《交響曲第7番》です。ことさように剛直で分かりにくい曲が多いなか、第7番は、珍しく叙情的で甘美なメロディーが多く含まれています。1883年、彼が59歳の年に完成し、やっとこさ初演が大成功した作品といわれ、第4番《ロマンチック》と並んで高い人気を誇っています。これからブルックナーを聴いてみようという人は、この第7番から始めるのがいいかもしれません。

 愛聴盤は、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、ドレスデン・シュターツカペレによる1981年の録音です。「ドレスデン国立管弦楽団」と呼ばれることもあるドレスデン・シュターツカペレは、1548年に設立された、たいへん古い歴史のあるオーケストラです。1548年というと、日本ではまだ戦国時代です。この録音は旧東ドイツに属していたときのものでして、ブロムシュテットによる演奏はあまり威圧的なところがなくて、とても品位のある演奏だと感じます。初めての方でも聴きやすいと思います。
 

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