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漢詩を読む ~『静女(邶風 )』

原文

靜女其姝
俟我於城隅
愛而不見
搔首踟躕
靜女其孌
貽我彤管
彤管有煒
説懌女美
自牧帰荑
洵美且異
匪女之為美
美人之貽

書き下し文

静女(せいじょ)其(そ)れ妹(うるわ)し
我(われ)を城隅(じょうぐう)に俟(ま)つ
愛(あい)として見えず
首(あたま)を掻(か)きて踟躕(ちちゅう)す
静女(せいじょ)其(そ)れ孌(うつく)し
我(われ)に彤管(とうかん)を貽(おく)る
彤管(とうかん)は煒(い)たり
女(じょ)の美を説懌(えつえき)す
牧(ぼく)より荑(てい)を帰(おく)る
洵(まこと)に美にして且(か)つ異(い)
匪(か)の女(じょ)の美を為(な)し
美人(びじん)の之(こ)れ貽(おく)ればなり

 美しい娘の姿は本当にうるわしい。その娘が、私を町はずれで待っている。ところが、辺りはほの暗く、ぼんやりとしてよく見えない。頭を掻きながらうろうろしている。やっと逢えた美しい娘は、慕わしく私に赤い笛(彤管)を贈ってくれた。彤管は赤くて艷やかなで、その美しさもともに悦ばしい。娘は野に咲く茅(つばな)の花も贈ってくれた。それは本当にきれいで珍しい花だった。でもその花そのものが美しいというわけではない。美しい娘からの贈り物だから美しいのだ。

説明

 『詩経』にある、愛する女への思いを歌った男の詩です。男は、彼女からの贈り物が嬉しくてならず、彼女が美しいだけでなく、彼女からのプレゼントも美しくいとおしくてならないと言っています。その切ない心情は、恋する人ならよく分かりますね。

 雑言古詩。〈静女〉は美しい女性、物静かでしとやかな女性。〈其〉は語調を整える助辞。〈俟〉は待つ。〈城隅〉は町を囲む城壁の片隅。〈愛〉は曖昧の曖で、ぼんやりしてはっきり見えないこと。〈踟躕〉はうろうろすること。〈孌〉はなまめかしい、女らしくて美しい。〈彤管〉の〈彤〉は赤い。〈菅〉は諸説あり、菅や笛とする説などがあります。〈煒〉は赤々と輝くさま。〈説懌〉は緊張が解けて喜ぶこと。〈荑〉はつばな、日本でいう茅花、チガヤの花穂。男女が求愛のしるしに相手に贈るものだったようです。

 『詩経』は、305編からなる中国最古の詩集で、孔子が編集したといわれます。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・頌(祭礼の歌)の三部からなっており、風は国風ともいい、周南・召南・邶(はい)・鄘(よう)・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳(ひん)の15に分かれ、雅は大雅・小雅の二つに分かれ、頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれています。
 これらの詩を孔子は、「詩三百、一言以てこれを蔽(おお)わば、曰く、思い邪(よこしま)なし」と評しており、純朴な心情を詠ったものが多くあります。また、『詩経』に収める詩は四言詩を基本とし、韻は踏みますが、句数、平仄などの形式は定まっていませんでした。
 

漢詩の言葉が表すもの

鴛鴦(えんおう:オシドリ)
 →夫婦
布衣(ふい:布製の着物)
 →官位のない人、平民
蛾眉(がび:ガの触覚)
 →美女
(がん)・(こい)
 →手紙
金烏(きんう:カラス)
 →太陽
紅顔(こうがん:紅い顔)
 →少年または美人
香草(こうそう)
 →高潔、節操
黒頭(こくとう:髪の黒い頭)
 →青年
七弦(しちげん:七本の弦)
 →琴
朱紫(しゅし:朱色と紫色)
 →高位高官
春草(しゅんそう)
 →別離
草色(そうしょく:若草の色)
 →つまらぬ人間、小人
丹赤(たんせき:朱色と赤色)
 →心
朝雲(ちょううん)
 →男女の色恋
杜康(とこう:酒をつくったという伝説の人物)
 →酒
浮雲(ふうん)
 →はかなさ
 

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