凪
出発当日
緊張、はしていない。
不安、でもない。
ほんの少しだけ高揚している、かもしれない。
でも何も感じていないと言う方が正しい気がする。
でも、そうでもなくて。
もし、形容し難いこの気持ちに名前をつけるとしたら、“凪いでいる"だろうか。
心が何も余計なものが入っていなくて、それでいてすっとしていて、澄んでいる。
例えるなら世界で一番美しい海の水面が一切揺れることなく、確かにそこに存在しているはずなのに、大きすぎる静寂に包まれたために何も存在していないような感じ。
これから未知の世界に行くことは頭では十分に理解している。
生まれて初めてのひとり暮らし。
親がいない生活に不安を感じないわけがない。
しかしながら、旅行、非日常、もっと言うならイレギュラーが大好きな私が海外へ。
しかも3ヶ月も行くのにわくわくしないはずがない。
なのに、だ。
心が凪いでいる。
それでも、いつもより五感が研ぎ澄まされていて、感覚が敏感になっている。
眠たくなるはずの昼食後も全く眠くはない。
こんな気持ちになったのは初めてで、やはり、この感情に名前をつけたくなった。
そんな中で私は思った。"いよいよ始まる”そんな言葉が頭をよぎった